概要
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は、近年、中小企業やスタートアップ企業などから注目を集めている市場であり、TOKYO PRO Market へ上場を目指す企業も年々増加しています。
この市場は、東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの株式市場であり、上場することによって企業の知名度や信用度が向上する、優秀な人材を確保しやすくなる、社内の管理体制やガバナンスの整備が進むなどのメリットがあります。
また、上場に必要な監査期間は最近1年間であり、一般市場への上場に必要な監査期間と比べて短く、監査法人も大手から中堅規模までさまざまな監査法人が実績をあげているという特徴があります。
本コラムでは、TOKYO PRO Market に上場している企業の監査法人について、TOKYO PRO Market の概要や上場企業の特徴に触れながら解説していきます。
目次
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の概要
TOKYO PRO Market は、上場基準が柔軟に設計されていることが特徴です。一般市場と比べて短期間での上場が可能であり、形式基準(数値基準)が存在しないため、売上や利益の額、株主数、流通時価総額や株価に左右されずに上場することができます。また、オーナーシップを維持したまま上場できることもあり、上場のハードルが低く魅力的な選択肢となっています。
監査期間についても、一般市場に上場するのに必要な監査期間は2年間であるのに対し、TOKYO PRO Market に上場するのに必要な監査期間は1年間であり、一般市場と比べて短いため、よりスムーズな上場準備を進めることができます。また、それに伴い上場に必要なコストも抑えることができます。
その他、TOKYO PRO Market と一般市場の主な違いは下記表の通りです。
項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場 |
開示言語 | 英語又は日本語 | 日本語 |
上場基準 | 形式基準:なし 実質基準:あり | 形式基準:あり(株主数、流通株式等) 実質基準:あり |
審査主体 | J-Adviser | 主幹事証券会社、東証 |
上場申請から上場承認までの期間 | 10営業日(上場申請前にJ-Adviserによる意向表明手続きあり) | 2、3か月程度(標準審査期間) |
上場前の監査期間 | 最近1年間 | 最近2年間 |
内部統制報告書 | 任意 | 必須 |
主な投資家 | 特定投資家等(いわゆる「プロ投資家」) | 一般投資家 |
東京証券取引所 上場ガイドブック2023 TOKYO PRO Market 編より加筆https://www.jpx.co.jp/equities/products/tpm/listing/tvdivq0000007z5r-att/tpm2024_11.pdf |
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場している企業の推移と特徴
以下図の通り、TOKYO PRO Market に上場する企業の数は、TOKYO PRO Market の開設以来、年々増加しています。
直近の新規上場数の推移としては、2022年には21社、 2023年には32社が新規に上場しました。さらに、2024年も8月末時点で31社が上場しており、今後もさらに増えていくことが見込まれています。
TOKYO PRO Market に上場している企業の特徴として、地域や業種の多様化が進んでいることがあげられます。
一般市場に上場している企業は、東京を中心とした首都圏に本社を置く企業が多いです。TOKYO PRO Market に上場している企業も首都圏に本社を置く企業が多いですが、地方に本社を置く企業も多く上場しており、さまざまな地域の企業が上場していることが特徴としてあげられ、地方創生の観点からも注目を集めています。
業種に関しても、一般市場、特にグロース市場では情報・通信業の企業が上場するケースが近年多いですが、TOKYO PRO Market では、サービス業、情報・通信業、不動産業、小売業、建設業などさまざまな業種の企業が上場しています。
また、TOKYO PRO Market に上場した数年後に、一般市場へのステップアップ上場をする企業もあります。2022年には1社が一般市場にステップアップ上場、2023年には4社が一般市場にステップアップ上場、2024年(8月末時点)には1社がステップアップ上場しています。
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場している企業の監査法人
TOKYO PRO Market に上場するためには、特定証券情報(又は発行者情報)の提出が必要です。特定証券情報等に記載される直近の財務書類には、監査報告書を添付する必要があり、この監査報告書の作成主体は監査法人であることが求められています。
直近3年と2024年(9月末までの予定を含む)で、TOKYO PRO Market に上場した企業の監査法人とその件数(新規上場時)は以下の通りです。
監査法人 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年(9月末までの予定を含む) | 累計(開設以来) |
監査法人コスモス | 2 | 6 | 4 | 7 | 30 |
ひかり監査法人 | 1 | 2 | 3 | 1 | 8 |
監査法人ハイビスカス | 3 | 0 | 0 | 0 | 8 |
有限責任監査法人トーマツ | 0 | 1 | 1 | 0 | 7 |
監査法人やまぶき | 0 | 0 | 2 | 2 | 6 |
新月有限責任監査法人 | 0 | 0 | 3 | 3 | 6 |
EY新日本有限責任監査法人 | 0 | 3 | 1 | 0 | 6 |
有限責任大有監査法人 | 0 | 2 | 2 | 0 | 5 |
太陽有限責任監査法人 | 0 | 0 | 0 | 3 | 4 |
東光監査法人 | 1 | 0 | 2 | 1 | 4 |
東陽監査法人 | 2 | 0 | 2 | 0 | 4 |
その他 | 5 | 7 | 12 | 19 | 68 |
日本証券取引所グループ 銘柄一覧 (TOKYO PRO Market) より抜粋・加工 |
TOKYO PRO Market に上場する企業は、一般市場に上場する企業と比べて規模が小さく、中小企業やスタートアップ企業であることが多いです。これらの企業は、成長段階に応じた柔軟な対応やコスト面でのメリットを重視することが多いため、監査法人の選定においても、監査の品質を担保しながら監査コストの最適化が期待できる中堅・中小の監査法人が選ばれる傾向にあります。
一方で、EY、Deloitte、KPMG、PwCといったBig4と呼ばれる大手監査法人が、TOKYO PRO Market へ上場を目指す企業の監査法人になることは一般市場と比べると限られています。大手監査法人は、豊富なリソースとグローバルネットワークを持ち、大規模な企業や海外展開を行っている企業の監査に対応できる一方で、監査コストも高額になることが一般的であり、TOKYO PRO Market へ上場を目指す企業の監査法人として選ばれるケースはまだ多いとは言えない状況です。このような背景もあり、実績を見ても、中堅・中小の監査法人がTOKYO PRO Market 上場企業の監査を担当することが多くなっています。
監査法人はJ-Adviserと同様に、企業がTOKYO PRO Market に上場するためには必要不可欠な存在です。TOKYO PRO Market へ上場を目指す企業の増加に伴い、上場を支援するパートナーの需要も高まり、大手監査法人に加えて中堅・中小の監査法人が果たす役割への期待も高まってきています。
まとめ
本コラムでは、TOKYO PRO Market に上場している企業とその監査法人について解説しました。
TOKYO PRO Market は、柔軟なガバナンス設計による上場も可能となっていることや、近年の注目度の高まりなどから、上場を目指す企業は年々増加してきており、大手監査法人のみならず中堅・中小の監査法人が活躍する場も広がっています。
今後もTOKYO PRO Market へ上場を目指す企業は増加すると予想され、多様な業種や地域の企業が上場することで、TOKYO PRO Market の市場自体の魅力もより一層高まることが期待されています。