上場廃止の8割以上は企業の意思決定である ─ TPM と一般市場の退出構造を比較する

上場廃止の8割以上は企業の意思決定である ─ TPM と一般市場の退出構造を比較する

和田拓馬(株式会社デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士)

「上場廃止」という言葉にポジティブな印象を持たれる方は少ないかと思います。経営が行き詰まった、基準を満たせなくなった、市場から退場させられた。そうした連想が働きやすい言葉です。

ところが日本取引所グループ(JPX)が公表しているデータを実際に集計すると、まったく違う姿が見えてきます。東京証券取引所の一般市場でも、TOKYO PRO Market(以下、TPM)でも、上場廃止の大半は企業自身の意思決定によるものでした。

今回は、JPX の上場廃止銘柄一覧をもとに、一般市場と TPM の退出構造を並べて比較します。両者は「大半が企業の意思決定」という点で共通しますが、強制退出の仕組みと、退出理由の開示のあり方には明確な違いがあります。

なお、集計の基準は市場ごとに異なります。TPM は市場開設以降の累計(2026年8月27日時点)、一般市場は上場廃止銘柄一覧の2026年掲載分(2026年8月25日時点)を用います。TPM は累計でも63社と母数が小さく、一般市場は年間126社と規模が大きいため、それぞれ意味のある集計単位を選んでいます。

一般市場でも、上場廃止の8割以上は企業の意思決定

まず一般市場から見ていきます。JPX の上場廃止銘柄一覧に掲載されている2026年分126社を、廃止理由ごとに分類しました。

廃止理由社数構成比
買収・MBO・完全子会社化・合併など109社86.5%
上場維持基準への不適合12社9.5%
内部管理体制に関するもの5社4.0%

基準抵触などによる強制的な退出は13.5%にとどまり、残る86.5%は企業側の意思決定によるものでした。

109社の内訳を見ると、性格がよく分かります。久光製薬、マンダム、ラクスル、パラマウントベッドホールディングス、太平洋工業などが MBO により非公開化しています。日野自動車は三菱ふそうトラック・バスと経営統合して ARCHION となり、東邦チタニウムは JX 金属の完全子会社化、ライトオンはワールドの完全子会社化という形で市場を離れました。ギフティのように、持株会社への株式移転に伴って上場廃止にカウントされているケースもあります。

いずれも経営不振による退場ではありません。資本構成を組み替えるための能動的な選択であり、むしろ企業価値を高めるための判断として実行されたものです。

JPX は上場廃止理由の記載ルールを明示しており、株式交換や株式移転による場合は「(完全親会社名)の完全子会社化」、それ以外の買収手続については、適時開示に MBO と記載されていれば「MBO」、買収主体が支配株主や親会社であれば「支配株主等による買収」、それ以外は「他社による買収」と表記されます。退出の性格が理由欄から読み取れる設計になっています。

「上場廃止=経営不振」というイメージは、そもそも一般市場の実態とも合っていない。この点をまず押さえておく必要があります。

TPM を離れた企業は累計63社

次に TPM を見ます。JPX が公表する上場廃止銘柄一覧では、2025年以前が Excel で、2026年分がウェブページで提供されています。両者を合算すると、市場開設以降に TPM を離れた企業は累計63社となります。

全体像を整理すると、次のようになります。東証上場推進部が2026年2月18日に公表した資料によれば、2025年末時点で累計約220社が TPM に上場し、163社が上場中、17社が一般市場へ移行、約40社が上場廃止となっています。上場廃止銘柄一覧では2025年末までに54社が計上されており、そこから一般市場へ移行した17社を除くと37社。東証資料の「約40社」という表記と整合します。

年別の推移と、前年末の上場社数を分母にした退出率は以下のとおりです。

年前年末上場社数上場廃止退出率うち一般市場移行を除く
202033社2社6.1%1社
202141社8社19.5%6社
202247社4社8.5%3社
202364社6社9.4%3社
202490社7社7.8%4社
2025133社17社12.8%13社

2026年は8月27日までに9社が上場廃止となっており、いずれも一般市場への移行ではありません。

目を引くのは2025年です。上場廃止17社のうち、一般市場への移行を除いた13社という数字は過去最多にあたります。TPM は上場社数そのものが急拡大しており、母数が増えれば退出も増えるのは自然ですが、退出率で見ても12.8%と前年の7.8%から上昇しました。

ただし、この増加が何を意味するのかは、現時点では判断できません。理由は次のセクションで述べるとおり、TPM の上場廃止理由が公表資料からは読み取れないためです。推測で説明を補うことはせず、事実として増加していることのみを記録しておきます。

TPM の強制的な上場廃止は、開設以来1社だけ

TPM の上場廃止63社について、JPX 公式の廃止理由を集計すると、次の2種類しか存在しませんでした。

  • 申請による上場廃止:62社
  • 担当 J-Adviser を確保できない場合:1社

強制的な退出に該当するのは、2016年4月に上場廃止となった MISAWA HABITA 社の1社のみです。 2009年の市場開設以降、それ以外のすべての退出が企業側の申請によって行われています。

一般市場と並べると差は明確です。

市場集計対象強制的な退出比率
TPM累計 63社1社1.6%
一般市場2026年 126社17社13.5%

一般市場の強制退出が13.5%であるのに対し、TPM は1.6%。8倍以上の開きがあります。両市場とも「大半は企業の意思決定」という点は共通していますが、強制退出が現実に機能しているかどうかという点では、まったく様相が異なります。

なぜ差が生まれるのか 形式基準の有無という制度設計

この差は、市場の質の違いではなく、制度設計の違いから生まれています。

一般市場には上場維持基準があります。流通株式時価総額や流通株式比率といった形式的な指標が定められ、基準に適合しない状態が改善されなければ上場廃止に至ります。2026年に「上場維持基準への不適合」で廃止された12社は、この仕組みが実際に作動した結果です。市場区分の見直しに伴う経過措置が終了し、基準が実効性を持つ段階に入ったことも背景にあります。

一方の TPM は、上場基準に形式要件を設けていません。東証資料が示す制度比較によれば、一般市場が形式基準と実質基準の両方を持つのに対し、TPM は実質基準のみです。上場審査の主体も取引所や主幹事証券会社ではなく、J-Adviser が担います。

そして J-Adviser は、上場審査だけでなく上場後も継続的に指導・助言を行う立場にあります。金融商品取引法上、金融商品取引所は J-Adviser に自主規制業務の一部を委託する制度設計となっており、伴走者であると同時に規律の担い手でもあります。担当 J-Adviser を確保できない場合が上場廃止事由になっているのは、この構造の裏返しです。

つまり TPM には「形式基準に抵触して退場する」という経路がそもそも用意されていません。規律は、数値基準ではなく J-Adviser との継続的な関係によって担保されています。TPM は規律が緩いのではなく、規律のかけ方が違う。 強制退出1社という数字は、その制度設計を反映したものと読むのが妥当でしょう。

退出理由の開示 ─ TPM はいまのところすべて「申請による上場廃止」

もう一点、両市場を比較して見えてくるのが、退出理由の開示粒度です。

一般市場では、前述のとおり MBO、他社による買収、支配株主等による買収、完全子会社化、会社合併といった区分が理由欄に記載されます。括弧内には公開買付けや株式併合といった実施されたコーポレートアクションまで示されるため、その企業がどういう経緯で市場を離れたのかを外部から把握できます。

TPM の場合、いまのところ62社すべてが「申請による上場廃止」の一語に集約されています。企業が自ら申請したという事実は分かりますが、その先の内訳は理由欄からは読み取れません。

一般市場へ移行した17社については、東証が2026年2月に公表した資料で社名と移行先が一覧化されたため、ステップアップであることが判明しています。しかし残る企業がどういう経緯で TPM を離れたのかは、公表資料からは判別できません。M&A によるものか、経営戦略の見直しによるものか、あるいは別の事情によるものか、外部からは区別がつかない状態にあります。

これは制度の欠陥というより、市場の成長段階を反映したものと考えるべきでしょう。TPM は長らく上場社数が少なく、退出も年に数社という規模でした。開示の粒度を細かくする必要性が、そもそも高くなかったといえます。しかし上場社数が163社に達し、年間の退出が二桁に乗る段階に入ると、事情は変わってきます。

東証自身も方向性を示しています。2026年2月の資料では、全 TPM 上場企業を対象に、新規上場時および上場後における上場目的の開示を働きかける施策が2026年春をめどに打ち出されました。なぜ TPM に上場するのか、どのように TPM を活用したいのかを可視化し、上場後も毎年1回以上、その実現状況を評価・開示するという内容です。上場目的が可視化されれば、市場を離れる際の説明も、その目的との関係で語られるようになると考えられます。

上場を検討する企業が押さえておきたいこと

ここまでのデータから、上場を検討する企業に持ち帰っていただきたい点を3つ挙げます。

上場廃止は必ずしも失敗ではない。

一般市場でも86.5%、TPM では98.4%が企業側の意思決定による退出です。上場廃止という言葉に過度な負のイメージを持つ必要はありません。社内で上場を議論する際、この数字は冷静な判断材料になります。

TPM には基準抵触による退場の経路がほぼない。

形式基準を持たない制度設計のため、業績が一時的に悪化したことを理由に上場廃止となる仕組みは用意されていません。ただし裏を返せば、J-Adviser との関係を維持できるかどうかが上場継続の前提条件になります。J-Adviser の選定は、上場時だけでなく上場後を左右する意思決定です。

出口の設計も含めて上場を考える。

上場は入口だけの話ではありません。一般市場へ移行するのか、TPM に留まるのか、あるいは M&A という選択肢もあり得るのか。東証が上場目的の開示を求める方向に動いている以上、自社が TPM をどう活用し、将来どういう姿を目指すのかを言語化しておく必要があります。退出する場面が訪れたとき、それを株主や取引先、従業員にどう説明するかまで含めて考えておくことが、上場企業としての誠実さにつながります。

まとめ

一般市場でも TPM でも、上場廃止の大半は企業の意思決定によるものでした。一般市場では126社中109社(86.5%)が買収・MBO・完全子会社化などによるもので、基準抵触による強制退出は17社(13.5%)にとどまります。TPM では累計63社のうち62社が申請による上場廃止で、強制的な退出は開設以来1社だけです。

両者の違いは2点に集約されます。ひとつは形式基準の有無で、TPM は数値基準ではなく J-Adviser との継続的な関係によって規律を担保する設計になっています。もうひとつは退出理由の開示粒度で、一般市場が退出の性格を区分して公表しているのに対し、TPM はいまのところすべて「申請による上場廃止」に一括されています。

TPM は上場社数が163社に達し、市場としての役割が見直される段階にあります。東証が上場目的の可視化に踏み出したことは、その表れでもあるでしょう。上場を検討する企業には、入口の議論だけでなく、市場をどう活用し、どういう形で次の段階に進むのかという視点を持っていただきたいと思います。

無料相談会のご案内

FinanScope では、TOKYO PRO Market 上場に関する無料相談会を実施しています。

相談可能な内容

  • TOKYO PRO Market 上場の準備・進め方
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  • 自らの TOKYO PRO Market 上場経験に基づく実践的なサポート
  • 公認会計士・税理士の資格を持つ担当者が実務目線でアドバイス

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