IPO・上場準備に関わるイベントの選び方 1年間で28件のイベントに参加して感じた類型

IPO・上場準備に関わるイベントの選び方 1年間で28件のイベントに参加して感じた類型

和田拓馬(株式会社デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士)

上場準備に関わるイベントは、数多く開催されています。証券取引所が開くもの、証券会社や VC が主催するもの、自治体が地域振興として企画するもの、SaaS ベンダーがプロダクト紹介を兼ねて開くもの。無料で参加できるものも多く、選択肢は豊富です。

一方で、それぞれのイベントが「誰に向けた、どういう性質の場なのか」を横断的に整理した情報はほとんど見当たりません。上場準備の担当者が限られた時間のなかで参加先を選ぶには、判断材料が不足しているのが実情ではないでしょうか。

私は2025年8月からの1年間で、IPO や上場準備に関わるイベント 28件に参加しました。参加者としてだけでなく、登壇者として4件、主催者として4件、協賛企業として1件という立場も経験しています。今回は、その記録をもとに、上場準備に関わるイベントを主催者の性質から類型化し、準備フェーズごとにどこへ足を運ぶべきかを整理します。

1年間の参加記録の全体像

はじめに、28件の内訳を数字で示します。

繰り返しになりますが、参加した立場の内訳は、参加者として 19件、セミナー登壇 4件、セミナー主催 4件、スポンサー協賛 1件でした。開催地は東京、名古屋、京都、大阪、神戸、香川、福島に及び、東京一極集中にはなっていません。

主催者の顔ぶれも幅広く、証券取引所、証券会社、VC、コンサルティング会社、SaaS ベンダー、M&A 仲介会社、自治体、専門人材コミュニティ、監査法人のアルムナイ組織と多岐にわたります。参加者の属性も、上場企業の CXO から個人投資家、県職員、学生まで、イベントごとに大きく異なりました。

同じ「IPO 関連イベント」という括りでも、中身は相当に違います。参加先を選ぶには、まず主催者の性質を見るのが近道です。

主催者の性質から見た7つの類型

1 証券取引所系

証券取引所そのもの、あるいは取引所が共催に入るイベントです。1年間では、名古屋証券取引所の名証 IR EXPO 2025、京都銀行と東京証券取引所による KYOTO INNOVATOR’S SUMMIT 2025 に参加しました。

特徴は、市場そのものの情報が一次情報として得られる点にあります。制度変更の方向性や市場の位置づけについて、取引所の考え方を直接聞ける機会は貴重です。名証 IR EXPO のように個人投資家が参加するイベントでは、上場後の IR がどう受け止められるかを肌で感じられます。

上場後の姿を具体的にイメージしたい段階の企業に向いています。

2 証券会社・VC 系

主幹事証券や VC が、投資先や取引先を招いて開く会です。フィリップ証券の Club Chemistry には2回、池田泉州キャピタルの勉強会には登壇者として参加しました。

証券会社系のイベントは、上場企業と上場準備企業が同じ場に集まる点に価値があります。すでに上場した経営者と準備中の経営者が直接話せる機会は、そう多くありません。VC 系や金融機関グループ系の勉強会は、地域の金融ネットワークとつながる入口になります。池田泉州キャピタルの勉強会は開催回数が237回を数えており、長く継続してきた場には独自の関係性が蓄積されています。

主幹事証券や J-Adviser との関係を深めたい企業、地域金融機関とのつながりを作りたい企業に適しています。

3 コンサルティング会社系

上場支援を手がけるコンサルティング会社が、継続的な研究会や情報交換会として開くものです。船井総合研究所の企業価値向上経営フォーラム IPO 分科会には1年間で5回参加し、ブリッジコンサルティングの IPO/M&A 業界発展のための情報交換会にも足を運びました。

単発のセミナーではなく、定期開催の会が多いのが特徴です。参加者が固定されるため、回を重ねるほど関係が深まります。業界のトレンドや他社の進捗が自然と入ってくる環境でもあります。

腰を据えて上場準備に取り組む企業、支援者側として業界動向を追う必要がある企業に向いています。

4 SaaS ベンダー系

会計・労務・法務などの SaaS を提供する事業者が、上場準備企業向けに開くイベントです。freee の freee IPO Day 2025 に参加し、マネーフォワードの IPO BootCamp 2025 には登壇者として参加しました。

プロダクトの紹介が含まれる点は前提として理解しておく必要がありますが、上場準備で必要になる管理体制の全体像を無料で学べる場として優秀です。内部統制、予実管理、労務管理といったテーマが実務者目線で整理されており、何から手をつけるべきか迷っている段階では特に役立ちます。

上場準備の初期段階にある企業にとって、コストをかけずに全体像をつかむ手段になります。

5 自治体・スタートアップエコシステム系

都道府県や市が主催する、IPO 啓発やスタートアップ支援のイベントです。福島県の IPO セミナーには登壇者として参加し、香川県の Startup Weekend in 丸亀と Booster Garage 2025、兵庫県・神戸市のひょうご神戸スタートアップエコシステム・コンソーシアムにも参加しました。瀬戸内で開かれる BLAST SETOUCHI in Kagawa にはスポンサーとして協賛しています。

参加者の属性が独特で、県職員、地域金融機関、VC、士業、起業家、学生が混在します。上場準備の専門的な議論という点では他の類型に譲りますが、地域の支援体制を把握し、行政や地銀とのつながりを作るには最も効率的な場です。上場を「地域経済への貢献」という文脈で捉え直す機会にもなります。

地方に本社を置く企業、地域での認知を高めたい企業に適しています。

6 上場企業コミュニティ系

すでに上場した企業だけが参加できる会です。日本 M&A センターが運営する BELLS、ブリッジコンサルティングと船井総合研究所による「100億企業を目指してプロマーケットから本則市場へ」といったセミナーが該当します。

いずれも TOKYO PRO Market 上場企業が対象で、上場後にはじめて参加資格が生じます。上場後の開示実務、ステップアップ上場の検討、資金調達の実際など、上場企業同士でしか交わせない話題が中心です。

準備段階では参加できませんが、上場後に何が待っているかを知る意味で、存在を把握しておく価値があります。

7 専門人材・アルムナイコミュニティ系

CFO や会計・財務人材が集まるコミュニティ、あるいは監査法人などの出身者組織です。J-WEST CFO SUMMIT 2025、CPA エクセレントパートナーズの会計ファイナンス人材 Conference 2026、PwC Japan Alumni network の交流会に参加しました。

企業単位ではなく個人単位のつながりが生まれる点が他の類型と異なります。上場準備を担う人材の採用は多くの企業にとって難題ですが、こうしたコミュニティは採用チャネルとしても機能します。CFO 候補や経理財務の中核人材を探している企業にとって、求人媒体とは異なる出会い方ができる場です。

上場準備のフェーズ別に見た参加先の選び方

7つの類型を、上場準備のフェーズに当てはめて整理します。

検討初期

上場するかどうかを検討している段階では、SaaS ベンダー系と自治体系が入口として適しています。参加費がかからず、上場準備の全体像と地域の支援体制を同時に把握できます。証券取引所系のイベントで上場後の姿を見ておくと、判断材料が増えるでしょう。

支援者選定期

主幹事証券や J-Adviser、監査法人を選ぶ段階では、証券会社系とコンサルティング会社系が中心になります。支援者候補と直接会える場であり、すでに支援を受けている企業の話を聞ける機会でもあります。

申請準備期

実務が本格化する時期は、時間的な余裕が最も乏しくなります。参加先を絞り、定期開催のコンサルティング会社系に継続参加して情報を切らさないようにするのが現実的です。

上場後

上場企業コミュニティ系への参加が可能になります。あわせて、専門人材コミュニティ系で採用チャネルを確保しておくと、上場後の体制強化に効いてきます。

継続参加でしか得られないもの

1年間の記録を振り返って改めて感じるのは、同じ会に通い続けることの意味です。

船井総合研究所の IPO 分科会には5回、フィリップ証券の Club Chemistry には2回、PwC Japan Alumni network の会には2回参加しました。初回は名刺交換で終わったとしても、2回目に顔を覚えてもらい、3回目に近況を尋ねられるようになります。相談を持ちかけられるのは、たいてい4回目以降です。

上場準備の期間は年単位に及びます。単発のイベントで得られる情報には限りがありますが、継続参加によって蓄積される関係は、支援者選定や人材採用といった局面で効いてきます。年に10件を1回ずつ回るよりも、2つの会に5回ずつ通うほうが得るものは大きい、というのが実感です。

参加を成果につなげるための3つの視点

最後に、限られた時間で参加先を選び、成果につなげるための視点を挙げます。

参加者の属性を事前に確認する

同じ「IPO セミナー」でも、参加者が上場企業の CXO か、起業したばかりの個人事業主か、あるいは個人投資家かで、得られるものはまったく異なります。案内文の対象者欄や過去の開催レポートを確認するだけで、ミスマッチはかなり防げます。

目的を1つに絞る

情報収集、支援者探し、人材採用、認知獲得。1回のイベントで複数の目的を同時に達成しようとすると、どれも中途半端になりがちです。今回は情報収集、次回はネットワーク作り、と切り分けたほうが結果的に成果は上がります。

参加する側から発信する側へ回ることを考える

私自身、1年間のうちに4件で登壇し、4件を自社で主催しました。登壇や主催の側に回ると、集まる人の質も、その後に生まれる関係の深さも変わります。上場準備の経験そのものが他社にとって価値ある情報になりますから、機会があれば発信する側を選ぶことをお勧めします。

まとめ

IPO・上場準備に関わるイベントは数多く開催されていますが、主催者の性質によって類型化できます。証券取引所系、証券会社・VC 系、コンサルティング会社系、SaaS ベンダー系、自治体・スタートアップエコシステム系、上場企業コミュニティ系、専門人材・アルムナイコミュニティ系等です。

自社の準備フェーズと目的に照らして参加先を選び、可能なかぎり同じ会に継続して通う。そして機会があれば、参加する側から発信する側へ回る。1年間で28件を回って得た結論は、シンプルなものでした。

上場準備は長い道のりですが、同じ課題に取り組む人たちとつながることで、進め方は確実に変わります。今回の整理が、参加先を選ぶ際の手がかりになれば幸いです。

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