上場時の株価はどうやって算定するのか? ── 一般市場とTOKYO PRO Marketの違いから考える

上場時の株価はどうやって算定するのか? ── 一般市場とTOKYO PRO Marketの違いから考える

和田拓馬(株式会社デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士)

「上場したら、自社の株価はいくらになるのか」──上場を検討する経営者にとって共通の関心事ではないでしょうか。株価は資金調達額や既存株主の資産価値、さらには従業員のストックオプションの価値まで、あらゆる関係者に影響します。

ただし、株価の決まり方は市場によって大きく異なります。東証プライム・スタンダード・グロースといった一般市場と、TOKYO PRO Market(以下、TPM)とでは、前提となる仕組みそのものが違うのです。

私は公認会計士として監査法人時代から IPO や M&A に伴う株価算定の実務に携わり、2024年10月には自社デジタルキューブのTPM上場を当事者として推進しました。上場時にはエクイティファイナンスを行いませんでしたが、上場後に2回の第三者割当増資を実施しており、TPM上場企業の株価をめぐる論点を実務の両面から経験しています。

今回は、一般市場における上場時の株価算定の基本を押さえた上で、TPM ではどう考えるべきか、さらに TPM から一般市場へのステップアップ上場時にはどうなるのかまで、順を追って解説します。

一般市場における上場時の株価算定

一般市場の IPO では、上場時に公募増資や売出しを行うことが前提となっており、投資家に株式を販売する価格=「公開価格」を決定するプロセスが制度として確立しています。

流れを簡単に整理すると、まず主幹事証券会社が企業の事業内容や業績を分析して「想定価格」を算定します。想定価格をもとに機関投資家へのヒアリング(プレマーケティング)を行い、価格帯としての「仮条件」を設定します。仮条件の範囲内で投資家から需要申告を集める「ブックビルディング」を実施し、需要の強さを踏まえて最終的な「公開価格」が決まります。

つまり一般市場の上場時の株価は、証券会社による理論的な算定と、投資家の需要という市場の声、両方を反映して形成される仕組みになっています。

算定の基本は「業績予想×類似会社比較」

では、出発点となる想定価格はどう算定されるのでしょうか。実務の中心にあるのは、類似する上場企業の倍率(マルチプル)を用いた類似会社比較法(マルチプル法)です。

ここで重要なのは、算定のベースが過去実績ではなく業績予想である点です。株価は将来の利益に対する期待を織り込んで形成されるため、上場申請期や翌期の予想利益に類似企業の予想PER(株価収益率)を乗じる形が基本となります。過去実績は、業績予想の実現可能性を裏付ける材料として機能します。過去からの成長トレンドと乖離した強気な予想は、投資家からの信頼を得られません。

また、企業の収益構造によって用いる指標は変わります。安定的に利益を計上する企業であれば PER が軸になりますが、先行投資で赤字のまま上場する成長企業では売上高を基準とする PSR(株価売上高倍率)、不動産などの資産を多く保有する企業では PBR(株価純資産倍率)、有利子負債の水準が事業構造上大きい企業では EV/EBITDA 倍率が参照されるといった具合です。評価手法の全体像については、既に公開している note 記事「企業価値評価の3手法を使い分ける実践ガイド」でも解説していますので、あわせてご参照ください。

類似企業の選定においては、業種の一致だけでなく、事業モデル・収益構造・成長フェーズ・企業規模の類似性まで踏み込んで検討します。同じ「IT 企業」でも、受託開発と SaaS では市場からの評価水準がまったく異なるためです。類似企業の選定こそが算定結果を左右する最大の変数であり、選定の難しさは TPM の文脈で後ほど詳しく取り上げます。

IPO ディスカウントとは何か

類似会社比較で算出した株価水準から、一定の割引を行った上で公開価格を設定するのが一般市場の IPO 実務の通例です。割引は「IPO ディスカウント」と呼ばれます。

割引が行われる理由は主に2つあります。1つ目は、新規上場企業には上場企業としての実績(開示の履歴、業績予想の達成実績)がなく、既上場の類似企業と比べて投資家が引き受けるリスクが相対的に高いことです。2つ目は、上場時の公募・売出しを確実に完了させるため、投資家にとって魅力的な価格設定が必要になることです。

発行会社の立場からすると、割引は調達額の減少を意味します。一方で、公開価格が割高に設定されて上場後に株価が低迷すれば、投資家の信頼を失い、その後の資金調達やIR活動に長く影響します。IPO ディスカウントは、発行会社と投資家の利害を調整する仕組みとして機能していると理解するのが適切でしょう。

上記の他、地方市場へのIPOの場合、東証よりも流動性が低いことによる、地方市場ディスカウント(≒非流動性ディスカウント)が反映されることもあるため、ディスカウント率については保守的に考えておくことも賢明と思われます。

以上を整理すると、想定株価の算定式は下記の通りです。

想定時価総額 = 予想当期純利益 × 類似企業のPER × IPOディスカウント × 地方市場ディスカウント

想定株価 = 想定時価総額 ÷ 発行済株式総数(新規発行後、潜在株式を含む)

仮に、N期の業績予想で予想税引後当期純利益が80百万円、類似企業のPERが平均10倍、IPOディスカウントは30%の場合、発行済株式総数630,000株(潜在株式30,000株含む)、IPO時の募集株式数が70,000株の場合、想定株価は下記の通りです。

想定時価総額 = 80百万円 × 10倍 × (1 – 30%) = 560,000,000円

想定株価 = 560,000,000円 ÷ 700,000株 = 800円

TPM における上場時の株価

TPM には「公開価格形成プロセス」が基本的にない

ここからが今回の本題です。TPM では、一般市場のような公開価格の形成プロセスが基本的に存在しません。

東証が2026年2月に公表した資料によれば、TPM 上場時に株式による資金調達・売出しを実施した企業は全体の約5%にとどまります。裏を返せば、約95%の企業はファイナンスを伴わずに上場しているということです。ファイナンスを行わないのであれば、投資家に販売する価格を決める必要がなく、想定価格・仮条件・ブックビルディングという一連のプロセス自体が発生しません。

引用元:東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(PDF/2026年2月18日)

資金調達を行う場合も、TPM では不特定多数の投資家を対象とする公募ではなく、特定の引受先を定めて新株を発行する第三者割当増資が基本手段となります。TPM で直接売買に参加できるのは特定投資家等(いわゆるプロ投資家)に限定されており、一般投資家の厚い需要を前提としたブックビルディングが成立しにくいためです。

つまり TPM における「上場時の株価」とは、第三者割当増資を行う場合はその発行価格を指し、ファイナンスなしで上場する場合は、上場前の直近の株式取引価格や株価算定書に基づく評価額が実質的な基準になる、と整理できます。

算定の論点は一般市場と共通、ただし条件が厳しい

では、TPM での発行価格や株価水準の算定は、一般市場とまったく別の理屈で行われるのでしょうか。答えは「ノー」です。業績予想をベースに、類似する上場企業の株価指標と比較し、必要な調整を加えるという枠組み自体は共通しています。

異なるのは、算定を取り巻く環境条件です。特に大きな制約が2つあります。

1つ目は、TPM 上場企業同士の株価比較ができないことです。TPM は二次流通がほとんど機能しておらず、2024年中に年間で一度も売買が成立しなかった企業が47%、売買1回のみの企業が41%に上ります。約定がなければ市場価格は形成されず、板に表示される気配値も価格として参照できる実態を持ちません。同じ TPM に同業の上場企業がいたとしても、株価指標の比較対象としては使えないのです。

2つ目は、一般市場から類似企業を選ぶ際のミスマッチです。TPM 上場企業の売上高の中央値は29.2億円であり、グロース市場(39.3億円)よりもさらに小規模です。一般市場には同規模の上場企業が少なく、事業内容が近い企業を探すと規模が数倍から数十倍離れている、というケースが頻繁に起こります。規模の違いは成長率・利益率・経営リスクの違いに直結するため、指標をそのまま当てはめることはできません。

東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(PDF)より抜粋

実務では、完全に一致する類似企業を求めるのではなく、事業セグメントの一部が重なる企業、ビジネスモデルが類似する企業、顧客層が共通する企業といった形で複数の企業から部分的な類似性を拾い、評価をレンジ(幅)で捉えるアプローチが現実的です。デジタルキューブの上場後の第三者割当増資の参考株価を検討する際も、単一の「正解となる類似企業」は存在せず、複数の視点からレンジを設定する形で進められています。

非流動性ディスカウント ── TPM 版「割引」の考え方

一般市場に IPO ディスカウントがあるように、TPM の株価算定にも割引の論点があります。ただし性質が異なります。

TPM の投資家にとって最大のリスクは、売却の出口が限られることです。前述の通り TPM の二次流通はほとんど機能しておらず、投資した株式を市場で売却して資金を回収できる見込みは高くありません。出口はステップアップ上場、M&A、発行会社や他の投資家への相対売却などに限られます。流動性の低さに対する割引は「非流動性ディスカウント」と呼ばれ、非上場株式の評価で一般的に考慮される概念ですが、TPM 上場株式にも同様の考え方が当てはまります。

もう一つ重要なのは、第三者割当の発行価格は最終的に交渉で決まるという点です。算定書の数字は交渉の出発点であり、着地点ではありません。投資家が納得する成長ストーリーと、その裏付けとなる事業計画の確度が、実際の発行価格を左右します。一般市場のように市場の需要が価格を押し上げてくれる仕組みがない分、「発行会社自身の説明力」が価格に直結するのが TPM の特徴と言えるでしょう。

上場中の TPM 株価は、M&A や増資の参考にできるのか

TPM 上場企業には、市場で取引可能な株価が存在します。それでは、M&A や第三者割当増資を行う際、TPM の株価をそのまま取引価格の基準にできるのでしょうか。

結論から言えば、参考にはなりますが、そのまま基準にはできません。理由は繰り返しになりますが、約定の乏しい市場でついた株価は、取引時点が古い、取引量がごく少量である、特定の当事者間の事情を反映しているといった可能性があり、公正な時価としての代表性に欠けるためです。M&A の交渉相手や増資の引受先が、TPM の株価をそのまま受け入れてくれる保証はありません。

加えて、第三者割当増資では会社法上の有利発行該当性、株式の移動では税務上の時価との関係という論点も生じます。市場価格と算定価格が乖離している場合にどちらを基準とすべきかは、取引の性質や当事者の関係によって判断が分かれる領域であり、個別の事情を踏まえた専門的な検討が必要です。TPM 上場企業であっても、重要な資本取引の際には株価算定を改めて実施することをお勧めします。

ステップアップ上場時の株価

証券会社は TPM 株価を「そのまま」は使わない

TPM から一般市場へのステップアップ上場は着実に増えており、累計17社が市場変更を実現しています(2026年7月時点)。それでは、ステップアップ上場時の公開価格は、TPM 時代の株価をベースに決まるのでしょうか。

答えは「ノー」です。ステップアップ上場時の公開価格は、通常の IPO とまったく同じプロセス、すなわち業績予想×類似会社比較に IPO ディスカウントを加味する形で、ゼロから算定し直されます。TPM 時代の株価が参照価格として採用されることは基本的にありません。

理由は構造的なものです。価格が価格として信頼されるためには、十分な数の投資家が参加し、継続的に取引が成立していることが前提となります。流動性の乏しい TPM の株価は価格発見機能が限定的であり、一般投資家に販売する公開価格の根拠としては使えない、というのが証券実務の考え方です。TPM に数年間上場していた企業であっても、一般市場の投資家から見れば「実績のない新規銘柄」として評価されるのです。

それでも会社と既存株主にとって TPM 株価目線は重要

ここで一つの非対称性が生じます。証券会社は TPM 時代の株価を参考にしない。しかし、会社と既存株主にとっては、TPM 時代の株価目線を無視することはできません。

TPM 上場中に第三者割当増資を実施していれば、その発行価格で株式を引き受けた投資家が存在します。引受価格は投資家にとっての取得原価であり、経済的にも心理的にも明確な基準点です。仮にステップアップ上場時の公開価格が TPM 時代の発行価格を下回れば、既存投資家は上場によって含み損を抱えることになり、会社は重い説明責任を負います。逆に、TPM 時代の発行価格を大きく上回る公開価格を実現できれば、初期に支えてくれた投資家に報い、次の資本政策への信頼にもつながります。

つまり、TPM 上場中の第三者割当の発行価格は、ステップアップ時に証券会社が算定する公開価格とは別の系統で、会社の資本政策上の「下限目線」として機能し続けるのです。TPM 上場中の増資は目先の調達額だけでなく、将来のステップアップ時の価格との整合性まで見据えて設計する必要があります。デジタルキューブが上場後の第三者割当増資を実施した際も、発行価格の設定は将来の資本政策との整合性を最も慎重に検討したポイントでした。

TPM 株価を「目標値」に変える──収益性向上と資本政策

ステップアップ上場時の株価は、TPM時代の株価の延長線上に自動的に決まるものではありません。だからこそ、TPM 上場中にできることがあります。公開価格の算定式が「業績予想×類似企業の株価指標」である以上、公開価格を高める王道は、業績予想の水準そのものを引き上げること、すなわち収益性と成長性を高めることに尽きます。

実例を見てみましょう。不動産の買取再販事業を展開する株式会社 AlbaLink は、2023年11月に TPM へ上場し、2025年12月に東証グロース市場へのステップアップ上場を果たしました。グロース上場時の公開価格は1,300円、初値は公開価格を42.3%上回る1,850円をつけています。TPM 上場時の初値ベースの時価総額21億円に対し、グロース上場時の初値ベースの時価総額は144億円と、約2年間で約7倍の成長です。TPM 上場企業から一般市場へステップアップした企業の時価総額成長率としてはトップクラスの伸び幅とされています。

東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(PDF)より抜粋

東証の資料でも、TPM から一般市場に上場した企業の時価総額成長率の中央値は2.0倍(経過期間の中央値は2年1か月)と示されています。TPM上場を通じて信用力を高め、業績を伸ばした企業は、ステップアップ時により高い評価で市場に迎えられているのです。

2026年からは、TPM 上場企業に対して上場目的の開示が求められる新しい枠組みも始まっています。ステップアップを目指す企業にとって、目標とする市場・時期・そのための業績目標を言語化することは、そのまま「将来の株価目線」を言語化することでもあります。TPM時代の株価を出発点に、収益性の向上と計画的な資本政策を積み重ねていく。上場時の株価とは、算定されるものであると同時に、経営によって設計していくものなのです。

まとめ

今回は、上場時の株価算定について、3つの場面を対比しながら解説しました。

一般市場では、業績予想×類似会社比較に IPO ディスカウントを加味した想定価格を起点に、ブックビルディングを通じて公開価格が形成されます。TPM では公開価格の形成プロセスが存在しない場合が多く、株価算定資料や直近の第三者割当増資の発行価格が参考となる場合もあり、類似企業選定の難しさと非流動性ディスカウント、そして投資家との交渉が価格を左右します。ステップアップ上場時には通常の IPO と同じ枠組みで公開価格がゼロから算定される一方、TPM 時代の発行価格は既存株主との関係において資本政策上の基準点であり続けます。

自社の株価がどう算定されるのかを理解することは、上場準備の入口であると同時に、上場後の成長戦略の土台でもあります。株価算定や資本政策についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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