上場後の成長戦略① – TPM市場を活用した次のステージへの準備

上場後の成長戦略① - TPM市場を活用した次のステージへの準備

デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬

TOKYO PRO Market(TPM)への上場は、企業にとって大きな節目となるイベントです。しかし、多くの経営者が実感されるように、上場はゴールではなく、新たな成長への出発点に過ぎません。上場後の企業は、投資家や市場からの期待に応えながら、持続的な成長を実現していくという新たな挑戦に向き合うことになります。

私たちデジタルキューブも2024年10月に TPM 上場を果たし、上場後の成長戦略を実践しているところです。この経験と、FinanScope を通じて支援してきた企業の事例をもとに、TPM 上場企業が検討すべき次のステージへの準備について解説します。

TPM 上場企業における典型的な4つの成長パターン

TPM 上場企業の成長戦略には、いくつかの典型的なパターンがあります。これらは互いに排他的なものではなく、多くの企業が複数の戦略を組み合わせています。自社の強みや市場環境、経営資源を考慮して、最適な選択をすることが重要です。

1. 一般市場ステップアップ型

TPM 上場を足がかりに、一般市場(東証グロース、東証スタンダード、地方証券取引所など)へのステップアップを目指す戦略です。このステップアップを実現するには、形式基準(株主数・流通株式・時価総額など)への対応や内部統制の強化、開示体制の高度化など、計画的な準備が必要になります。

実際のステップアップ事例からは、準備期間として1〜2年を見込む企業が多いことがわかります。自社の状況に合わせた現実的なタイムラインを設定し、計画的に準備を進めることが成功のカギとなります。

具体例としては、Geolocation Technology 社が2020年12月の TPM 上場から9か月後に福岡証券取引所Q-Board へステップアップしました。

また、株式会社ニッソウは2018年2月の TPM 上場から約2年後に名古屋証券取引所セントレックス市場(現ネクスト市場)へ、さらに2年後の2022年7月に東証グロース市場へ上場を果たしています。

参考:TOKYO PRO Market 最新状況 TPM 上場後に一般市場へ上場した会社

2. 業界内での M&A 推進型

TPM 上場による企業価値の明確化と信用力の向上は、M&A を活用した業界内での統合や事業拡大を加速させる効果があります。上場企業としての株式を活用した買収手法も選択肢に加わります。

具体例として、LUMBER ONE 社は2022年10月に TPM に上場し、約1年後の2023年9月にヤマエグループホールディングス株式会社の子会社になりました。
参考:ヤマエグループホールディングス株式会社 企業情報

また、五洋食品産業株式会社は2012年7月の TPM 上場後、2021年12月に三井物産株式会社の連結子会社となっています。
参考:五洋食品産業株式会社 GO!YO!について

M&A を成功させるためには、自社の成長戦略との整合性確認や、シナジー効果の具体的検証、適切な情報開示など、戦略的なアプローチが重要です。前述の LUMBER ONE 社や五洋食品産業の事例のように、TPM 上場企業が大手企業グループの一員となることで事業拡大を加速させるケースも見られます。

※一般市場へのステップアップ、M&A 推進に関してはコラム「上場後の成長戦略② – 一般市場ステップアップと M&A の活用」で詳しく解説しています。

3. 地域内での事業基盤強化型

TPM 上場企業の多くは、まず地域内での事業基盤を強化する戦略を取ります。地域に根差した事業展開は、地元金融機関や取引先との関係を深め、地域経済の中核として成長する道筋です。TPM 上場による信用力と知名度の向上は、地域内での取引拡大や優秀な人材確保に大きく寄与します。

このパターンの企業は、地域内でのシェア拡大と顧客基盤の強化に注力します。上場企業としての信頼性を活かして新規顧客を開拓するとともに、既存顧客との取引を拡大することで、地域内での存在感を高めていきます。同時に、地域金融機関との関係深化にも努め、資金調達環境を改善します。上場により向上した財務透明性は、金融機関からの信用力向上につながり、より有利な条件での資金調達が可能になるケースが多く見られます。

さらに、地域特性を活かした商品・サービスの開発も重要な取り組みとなります。地域ならではのニーズや資源を活用した独自の価値提供が、差別化要因となり持続的な競争優位につながります。これらの取り組みを効果的に市場に伝えるため、地域内での認知度向上のための IR・PR 活動も積極的に展開します。地元メディアや地域イベントなどを通じて企業価値を発信し、地域社会との信頼関係を強化していくのです。

4. グローバル展開型

一部の TPM 上場企業は、国内基盤を固めた上でグローバル展開を加速させる戦略を取ります。上場による知名度と信用力の向上は、海外展開における現地パートナーとの提携や人材確保に有利に働きます。

このパターンの企業は、まず海外投資家への効果的な IR 活動を通じて国際的な認知度を高め、グローバル市場での資金調達基盤を構築します。企業情報の英語での発信や海外投資家向け説明会の開催などを積極的に行い、国際的な支持を獲得していきます。同時に、クロスボーダー M&A の可能性も積極的に検討します。国内での成長に加えて、海外企業の買収や提携を通じて市場拡大や技術獲得を図ることで、成長のスピードを加速させることができます。こうしたグローバル展開を支えるためには、グローバル人材の獲得と育成も不可欠です。海外事業の推進や国際的な投資家との対話ができる人材を確保し、組織全体のグローバル対応力を高めていきます。

また、将来的な国際展開の基盤として、国際的な会計基準への対応準備も進めます。IFRS(国際財務報告基準)などへの移行を視野に入れた財務体制の整備は、国際市場での信頼性向上と透明性確保に貢献し、グローバル企業としての地位確立を支援します。

上場企業としての価値向上戦略

TPM 上場後の持続的な成長には、上場企業としての価値を継続的に高めていくことが不可欠です。特に以下の点が重要になります。

投資家に評価される情報開示の質向上

TPM 市場は機関投資家や適格投資家向けの市場ですが、これらの投資家は情報開示の質を重視します。信頼性の高い情報開示は、投資家の長期的な信頼を獲得し、企業価値評価の向上につながります。

具体的なアプローチとしては、決算資料の充実が挙げられます。業績の背景分析や将来見通しの根拠を丁寧に説明することで、投資家の理解と信頼を深めることができます。また、経営戦略・ビジョンを明確に提示することで、企業の方向性と成長可能性を投資家に示すことが重要です。

さらに、リスク情報の適切な開示とその対応策の説明は、企業の透明性と信頼性を高める要素となります。加えて、ESG などの非財務情報の充実により、企業の持続可能性と社会的責任への取り組みを示すことも、現代の投資家から高く評価される要素となっています。

アナリストカバレッジ獲得のアプローチ

TPM 市場では、アナリストカバレッジを獲得することが企業認知度と投資家の理解を深める上で重要です。アナリストによる定期的なレポート発行は、投資家層の拡大につながります。

TPM 上場企業がアナリストカバレッジを獲得するためのポイント

  • IR 担当者によるアナリストへの積極的なアプローチ
  • 定期的な会社説明会の開催
  • 業界動向と自社の優位性に関する情報提供
  • 経営陣とアナリストとの直接対話の機会創出

アナリストカバレッジの獲得は一朝一夕で実現するものではなく、継続的な関係構築の努力が必要です。上記のポイントを組み合わせた戦略的な IR 活動を通じて、徐々にアナリストの信頼を獲得していくプロセスが重要になります。特に TPM 市場の企業は規模や知名度の面で制約があることも多いため、自社の成長ストーリーを効果的に伝える工夫が求められます。

株式流動性向上のための施策

TPM 市場では株式の流動性確保が課題となることがあります。流動性プロバイダーとの連携強化に加えて、様々な施策を組み合わせることが効果的です。まず、適切な情報開示によって投資家の関心を喚起することが基本となります。定期的な決算説明会や IR 活動を通じて、企業の魅力や成長性を投資家に伝えることで新たな投資家層の開拓が可能になります。

また、株式の投資単位の適正化も検討すべき重要な要素です。投資しやすい価格帯を維持することで、個人投資家を中心とした幅広い層からの投資を促進できます。

さらに、株主還元策、特に配当政策を明確化することで、収益の安定性と株主への還元姿勢を示すことができます。長期的には、企業の成長ビジョンに共感する中長期保有株主の育成に注力することで、安定的な株主基盤の構築と株価の安定化を図ることが可能になるでしょう。

資金調達手段の多様化と財務戦略

TPM 上場企業は、非上場企業と比較して多様な資金調達手段を活用できる優位性があります。

エクイティファイナンスの活用方法

上場企業として利用可能なエクイティファイナンスには以下のような選択肢があります。

  • 公募増資
  • 第三者割当増資
  • 新株予約権の発行
  • 株式報酬制度

それぞれの手法には特徴とメリット・デメリットがあり、企業の状況や目的に応じた選択が重要です。特に希薄化の影響については、株主への十分な説明と理解が必要となります。

負債性資金の調達オプション

TPM 上場により信用力が向上することで、負債性資金の調達条件も改善する傾向があります。

  • 金融機関借入の条件改善
  • 社債発行の検討
  • ハイブリッドファイナンス(優先株式など)
  • コミットメントライン設定

特に事業拡大や設備投資などの成長投資には、株主資本と負債のバランスを考慮した最適な資金調達構造の検討が重要です。

資本効率の向上施策

TPM 上場後は、以下のような資本効率の向上も重要なテーマとなります。

  • ROE(自己資本利益率)の向上策検討
  • 適切な株主還元策の検討
  • 最適資本構成の追求
  • 政策保有株式の見直し

これらの資本効率向上施策を通じて、TPM 上場企業は投資家からの評価を高めながら持続的な成長基盤を構築することができます。

持続的成長を支える組織基盤の構築

上場後の持続的な成長には、組織基盤の強化が不可欠です。

経営人材の確保と育成

上場企業としての成長には、経営人材の層を厚くすることが重要です。まず経営層の多様性確保に努め、異なる視点や専門性を持つ人材を登用することで、環境変化への適応力や意思決定の質を高めることができます。同時に、将来を見据えた後継者育成計画の策定も欠かせません。計画的に次世代リーダーを育成することで、経営の継続性と企業理念の持続的な実現が可能になります。また、IR、財務、法務など特定分野の専門人材の確保も上場企業として重要な課題です。

これらの分野は投資家対応や情報開示など上場特有の業務に直結するため、質の高い人材の確保が企業価値向上の鍵となります。さらに、経営層の評価制度を確立し、成果に応じた透明性の高い評価を行うことで、経営陣のモチベーション向上と株主利益への一層の貢献を促すことができます。

  • 経営層の多様性確保
  • 後継者育成計画の策定
  • 専門人材の確保( IR /財務/法務など)
  • 経営層の評価制度の確立

社外役員の戦略的活用

社外役員は単なる形式ではなく、企業価値向上のためのリソースとしても活用すべきです。社外役員がもつ多様な経験や専門的知見を経営に活かすための具体的な方法を検討し、定期的な意見交換の場を設けるなど、社外役員との効果的なコミュニケーション体制を構築することが重要です。このような関係構築を通じて、社外役員による経営監督機能を強化し、客観的な視点からの経営チェックを促進することができます。

さらに、社外役員の意見を経営に反映させる仕組みを整備することで、外部の視点を取り入れた意思決定の質の向上と、経営の透明性・客観性の確保を実現できます。社外役員の知見を最大限に活用することは、上場企業としての経営品質向上に大きく貢献するのです。

  • 社外役員の経験・知見の活用方法
  • 社外役員との効果的なコミュニケーション
  • 社外役員による経営監督機能の強化
  • 社外役員の意見を経営に反映させる仕組み

上場企業にふさわしい組織文化の醸成

上場企業としての持続的成長のためには、組織文化の醸成も重要です。まず組織全体に株主視点を浸透させ、従業員一人ひとりが株主価値向上の意識を持って業務に取り組む文化を作ることが基本となります。また、情報開示の重要性に関する社内啓発を行い、適時適切な情報公開が企業の信頼性と評価を高めることへの理解を深めることも不可欠です。さらに、法令遵守はもちろん、社会的責任を果たすというコンプライアンス意識の向上にも組織的に取り組むべきです。

こうした取り組みの先に、短期的な利益追求にとどまらず、中長期的な価値創造を重視する文化が形成されます。このような企業文化は、上場企業として持続的に社会から信頼され、成長していくための重要な無形資産となるのです。

  • 株主視点の浸透
  • 情報開示の重要性に関する社内啓発
  • コンプライアンス意識の向上
  • 中長期的な価値創造を重視する文化

デジタルキューブの事例

デジタルキューブは2024年10月に TPM 上場を果たしたばかりですが、次のステージに向けた準備としていくつかの取り組みを実践しています。

上場後の成長戦略の実例

TPM 上場によって得られた信用力と知名度の向上を活かし、以下の成長戦略を推進しています。

  • 既存事業の拡大:WordPress 関連サービスの拡充
  • 新規事業の積極展開:上場準備クラウド「FinanScope」の機能強化
  • 地方企業の DX 支援:グループ会社ヘプタゴンとの連携による地方企業との関係性強化
  • 人材採用の強化:上場企業としての採用力向上の活用

直面した課題と対応策

上場後に直面した課題としては、以下のようなものがあります。

  • 情報開示の質・スピードの向上
  • 投資家との効果的なコミュニケーション構築
  • 上場企業としての社内意識改革
  • 中長期的な成長ビジョンの明確化と共有

これらの課題に対して、社内体制の強化やIR活動の充実、社内コミュニケーションの活性化などの対応を進めています。

次のステージに向けた準備状況

将来の成長に向けて、以下のような準備を進めています。

  • 内部管理体制の継続的強化
  • 資本政策の最適化検討
  • M&A・事業提携の可能性探索
  • ステップアップ上場への基盤構築

これらの取り組みは、段階的かつ計画的に推進しています。

成長戦略実行を支援する FinanScope のサービス

デジタルキューブが提供する上場準備クラウド「FinanScope」は、TPM 上場企業の成長戦略実行をサポートするための各種機能を提供しています。

企業価値評価機能(Valuation)

FinanScope の Valuation 機能は、上場後の戦略立案に活用できます。

  • 事業計画と決算書をアップロードし、類似企業を選択するだけで即時に価値算定
  • DCF 法、類似会社比較法、年買法の3つの算定方法を同時に活用
  • 事業計画の変更がリアルタイムで企業価値に反映され、シミュレーションが可能

プロジェクト管理機能(Management)

Management 機能は、上場後の成長戦略実行のプロジェクト管理をサポートします。

  • タスクの標準化による効率的なプロジェクト推進
  • 文書管理の効率化と情報の一元化
  • 進捗の可視化とガントチャートによるタイムライン管理
  • プロジェクトメンバー間のスムーズな情報共有

一般市場 IPO 対応

一般市場へのステップアップを目指す企業向けに、以下のサポートを提供しています。

  • J-SOX 対応や各種ガバナンス構築のための40以上の規定集とチェックリスト
  • 上場準備に必要なタスクの標準化と進捗管理
  • 一般市場の上場要件への対応をサポートするテンプレート

専門家によるコンサルティングサポート(オプション)

公認会計士・税理士などの専門家による個別コンサルティングサービスもオプションで提供しています。

  • 上場戦略に関する相談
  • M&A 戦略の立案サポート
  • 個別の課題に対する実務的なアドバイス

FinanScope はクラウドサービスの特性を活かし、リアルタイムでの情報共有と更新を実現します。変更履歴の自動管理や地理的制約を超えた関係者との円滑な連携が可能になります。特に地方企業にとって、専門家や証券会社との距離的・時間的障壁を大幅に軽減でき、セキュリティを確保しながら、場所を問わずアクセスできる環境で、上場後の成長戦略実行をスピーディかつ効率的にサポートします。

まとめ:次のステージに向けた成功のポイント

TPM 上場企業が次のステージへ進むための成功ポイントをまとめます。

短期・中期・長期のバランスのとれた戦略立案

上場後の成長戦略は、以下のようなバランスのとれた時間軸で検討することが重要です。

  • 短期(1年以内):上場効果の最大化と体制整備
  • 中期(1-3年):事業拡大と M&A・提携の推進
  • 長期(3年以上):市場ステップアップの準備とグローバル展開

ステークホルダーの期待と自社の成長ビジョンの調和

上場企業として、多様なステークホルダーの期待に応えながら成長を実現することが求められます。

  • 株主・投資家の期待する企業価値向上
  • 従業員のやりがいと成長機会の提供
  • 取引先・顧客との長期的な信頼関係構築
  • 地域社会への貢献と責任

上場企業としての社会的責任と持続的成長の両立

最終的には、社会的責任を果たしながら持続的な成長を実現することが成功の鍵となります。

  • ESG 視点を取り入れた経営
  • 透明性の高い情報開示
  • コンプライアンスの徹底
  • イノベーションと社会課題解決の両立

TPM 上場は、企業成長における重要な通過点です。この機会を最大限に活かし、次のステージへと進むための戦略的な準備を進めることで、企業の持続的な発展と社会への貢献を実現していただきたいと思います。

無料相談会のご案内

FinanScope では、上場後の成長戦略に関する疑問や課題についても無料オンライン相談会を実施しています。

相談可能な内容

  • 上場後の成長戦略の策定
  • 一般市場へのステップアップ準備
  • M&A 活用による成長加速
  • 投資家との効果的なコミュニケーション
  • FinanScope の上場後活用方法

特徴

  • 場所や時間を選ばないオンライン相談
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