事業成長や事業承継に TOKYO PRO Marketを活用する

事業成長や事業承継の手段として、TOKYO PRO Market (トウキョウ・プロ・マーケット) を活用する会社が増えています。このコラムでは近年注目を浴びている TOKYO PRO Market とは何か、東証一般市場との違いや、事業承継における活用について解説します。

監修者 (以下 和田)

TOKYO PRO Market とは何か

TOKYO PRO Market(以下、TPM)とは、東京証券取引所が運営する市場の一つで、株式取引を特定投資家等(*1)に限定した市場です。上場市場の一つですので、上場会社に適しているかという実質基準(*2)を満たしている必要がありますが、売上や利益、流通株式比率や時価総額といった形式基準が設けられていないため、一般的な上場市場よりも上場しやすい市場といった位置付けになっています。

2023年には新規上場企業数が20社を超える見込み勢いであり、過去最多を更新する勢いです。TPM には100社を超える企業がこれまでに上場を果たしました。他市場へのステップアップ上場や M&A による Exit、経営戦略の見直し等による上場廃止もありますが、2023年9月30日時点では80社が上場をしています。

TPM の主な特徴

  • 東京証券取引所が運営する市場の一つで、株式取引を特定投資家に限定した市場
  • 上場会社に適しているかという実質基準を満たしていればよく、売上や利益、時価総額といった形式基準が求められていない
  • 2023年には新規上場数は累計で100社を超え、現在も80社が上場している

(*1)金融期間や上場会社、資本金5億円以上の株式会社、一定の要件に該当する個人など
(*2)「市場の評価を害さず、当取引所に相応しい会社であること」、「事業を公正かつ忠実に遂行していること」、「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が整備され、機能していること」、「企業内容、リスク情報等の開示体制が整っていること」、「反社会的勢力との関係を有しないこと」の5つの項目
https://www.jpx.co.jp/equities/products/tpm/listing/index.html

東証一般市場と TPM の違い

東証の一般市場であれば、上場前には監査法人による監査が2年間必要です。準備期間を含めると、上場を目指す意思決定をしてから、最短でも3年が必要となります。またその期間中に、利益や時価総額などの数字基準も達成しなければならず、そのハードルは限られたリソースしかない中小企業には難しいものとなります。上場準備に3年超を費やす場合もあり、経営者にとっても株主や支援者にとっても苦しい期間となります。

この点、TPM であれば監査期間は1年であり、数字基準はありません。従って、内部管理体制や適切な決算・開示体制などを整えていれば、上場を目指す意思決定をしてから2年で上場することが可能です。審査主体は、東証一般市場は証券会社及び東証がこれを行うのに対し、TPM では東証から資格を付与された J-Adviser が行うといった点の相違があります。

IPO 時に売り出しをしなければならない流通株式の比率については、東証一般市場は25%以上求められることから、外部株主が入ってくることは避けられません。TPM であれば、制限がないため、オーナーが実質100%を保有したまま上場することも可能です(*3)。

東証一般市場と TPM の比較

東証一般市場
(プライム、スタンダード、グロース)
TPM
上場前の監査法人による監査期間直前2年直前1年
上場基準形式基準:あり(利益、時価総額など)
実質基準:あり
TPM
審査主体主幹事証券会社、東証J-Adviser
主な投資家一般投資家特定投資家等
株式売買日々変動限定的
流通株式比率25%以上(プライムは35%以上)基準なし
*オーナーが実質100%保有したままの上場も可能

「TOKYO PRO Marketの主な特徴」より一部加筆
https://www.jpx.co.jp/equities/products/tpm/outline/index.html

(*3) 上場時の値付けのため最小単位である100株の売却は必要となるが、流通株式比率の基準がないため、実質100%近く保有したままの上場が可能

TPM を活用した更なるステップアップ

2023年9月30日時点では、TPM を足がかりに、東京証券取引所スタンダードや福岡証券取引所Q-Board、名古屋証券取引所ネクストといった一般市場へステップアップ上場した会社は9社あります。地方の証券取引所への上場が多いのも、地域に根ざした企業にとって TPM が有力な選択肢になっていることの特徴と考えられます。

また、TPM 上場後に M&A によって他社グループの傘下に入った会社もあります。上場による収益性や知名度の向上、内部管理体制の強化などにより、資本提携の提案を受けやすくなった点もメリットとして挙げられます。

  • TPM 上場後に東京証券取引所スタンダード、福岡証券取引所 Q-Board や名古屋証券取引所ネクストなどの一般市場へ上場した会社は9社ある
  • TPM 上場後の収益性や知名度の向上、内部管理体制の強化などにより、M&A によって大手資本グループに参画したケースもある

TPM 上場後に一般市場へ上場した会社

会社名本社所在地TPM一般市場上場日および上場市場
(株)ジェイ・イー・ティー岡山県2021年3月29日2023年9月25日
東証スタンダード
(株)QLSホールディングス大阪府2019年11月25日2023年6月26日
名証ネクスト
ブリッジコンサルティンググループ(株)東京都2022年5月30日2023年6月26日
東証グロース
アップコン(株)神奈川県2021年3月29日2022年12月26日
名証ネクスト
(株)フロンティア福岡県2018年7月27日2021年11月1日
福証Q-Board
(株)Geolocation Technology静岡県2020年12月21日2021年9月13日
福証Q-Board
(株)ニッソウ東京都2018年2月26日2020年3月30日
名証セントレックス(*4)
(株)global bridge HOLDINGS東京都2017年10月17日2019年12月23日
東証マザーズ(*5)
(株)歯愛メディカル石川県2016年6月17日2017年12月18日 東証JASDAQスタンダード(*5)

(*4) 名古屋証券取引所が2022年4月4日に市場区分を「プレミア市場」、「メイン市場」、「ネクスト市場」に再編したことに伴い、名証セントレックスは「ネクスト市場」に引き継がれた。

(*5) 東証証券取引所が2022年4月4日に市場区分を「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」に再編したことに伴い、東証JASDAQスタンダードは「スタンダード市場」に引き継がれた。

事業承継における TPM の活用

近年では、事業承継における選択肢としても、TPM が注目されています。TPM であれば上述の通り、株式の売り出しをする必要はなく、経営のオーナーシップを維持したまま上場になることができるほか、後継者候補である親族や従業員にも上場準備を通じて会社経営の経験を積ませることができ、事業承継のタイミングを図ることが可能です。また、M&A による外部への売却といった場合にも、上場会社であることの安心感から、買い手にとっても M&A を検討しやすいといったメリットがあります。

まとめ

TPM への上場企業数が累計で100社を超えるなど、その認知度や活用方法が広まっています。M&A 以外の事業承継の手段を模索している会社、一般市場へのステップアップを考えている会社、そして特に地方に拠点を構える会社には、TPM は有効な選択肢になってくると思います。今後の更なる盛り上がりに期待します。

記事は2023年10月1日現在のものです。