事業成長や事業承継の手段として、TOKYO PRO Market (トウキョウ・プロ・マーケット) を活用する会社が増えています。このコラムでは、TOKYO PRO Marketに上場するために押さえておきたい3つの観点について解説します。
監修者 (以下 和田)
目次
1. 上場適格性要件(実質基準)の充足
以前のコラム(事業成長や事業承継に TOKYO PRO Marketを活用する)でも紹介した通り、TOKYO PRO Market では、実質基準を満たしていれば上場をすることが可能です。東京証券取引所では各実質基準について、J-Adviser による調査・確認の主なポイントを下記のとおり記載しています。
TOKYO PRO Marketの実質基準
上場適格性要件 | J-Adviserによる調査・確認の主なポイント | |
1 | 新規上場申請者が、当取引所の市場の評価を害さず、当取引所に相応しい会社であること |
・事業活動に関する法律体系、会計体系、税制などを理解していること ・事業内容・事業環境に関する理解があり、業務プロセスや業績推移などが明らかであること ・予算統制(年次/半期/月次等)が整備されているか ・上場予定日から12ヶ月間の運転資金が十分であること |
2 | 新規上場申請者が、事業を公正かつ忠実に遂行していること |
・関連当事者等との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないこと(取引の把握や牽制する仕組みの導入) ・申請会社の役員が上場会社として公正、忠実かつ十分な職務の執行を行えること |
3 | 新規上場申請者のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること |
・株主総会や取締役会が適切に行われており、役員の職務執行を確保する体制が整備されていること ・社内諸規程が整備・運用されていること 事業運営及び内部管理に必要な人員が確保されていること ・適切な会計処理が実施されていること ・法令順守のための社内体制が整備され、適切に運用されていること |
4 | 新規上場申請者が、企業内容、リスク情報等の開示を適切に行い、この特例に基づく開示 義務を履行できる態勢を整備していること |
・上場後の開示体制が整備され、開示規則・開示義務に対する十分な理解があること ・内部者取引及び情報伝達・取引推奨行為防止のための体制が整備されていること |
5 | 反社会的勢力との関係を有しないことその他公益または投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
・反社会的勢力との関係を有していないか ・反社会的勢力排除のための社内体制が整備されているか ・設立以降からの株主の異動状況を把握しているか |
東京証券取引所 上場ガイドブック2023 TOKYO PRO Market編より加筆
https://www.jpx.co.jp/equities/products/tpm/listing/tvdivq0000007z5r-att/2023-10.pdf
上記の中でも、特に重要なポイントについて記載します。
予算統制の整備
予算制度は、経営戦略に基づき予算を策定する仕組みであり、中期経営計画などに基づき単年度の予算計画を策定することが一般的です。予算体系については企業の事業内容によって様々ありますが、Aサービス・Bサービスのようなサービス別予算、東京本社・大阪支社のような事業部別予算、営業部や開発部などの機能に基づいた機能別予算などがあります。全社の売上高と各段階利益(*1) を適切に把握し、必要な意思決定ができる区分での予算編成が必要となります。
予算統制は、予算と実績の乖離を分析・報告し、必要に応じて予算を見直す一連のプロセスを言います。株式上場後には、公表している業績見込みから売上高で10%、各段階利益で30%以上の乖離が見込まれる場合には、適時開示によってこれを公表しなければなりません。従って、信頼性のある業績見込みを公表し、業績達成のための経営対応を図る必要があります。予算と実績の比較およびその差異分析については、月次決算を月初10日前後で締め、15日頃には取締役会へ報告し、取締役会において修正要否や経営方針の転換を判断する必要があります。
(*1)「営業利益」、「経常利益」及び「親会社株主に帰属する当期純利益」などの項目
関連当事者等との取引関係の整理
TOKYO PRO Marketにおいても、上場主体である会社と、経営者やその近親者との取引がある場合には、通常の取引条件に基づくものであるかを確認する必要があります。実態のない金銭のやり取りや通常の条件を超えた便宜が図られているなどの疑いの目を持たれることがないよう、必要性の乏しい取引関係については解消しておくことが望ましいです。
コーポレートガバナンスの整備
会社法では、上場会社は取締役会を設置しなければならないとしています。また取締役会設置会社は監査役を設置しなければなりません。従って、上場準備中の期間から、取締役会設置会社に変更して月次で取締役会を開催するほか、株主総会等においても必要な手続や計算書類の準備をして実施し、報告・決議事項等については議事録として残しておく必要があります。
社内諸規程の整備・運用
定款や取締役会規程といった「基本規程」、組織規程や職務分掌規程、稟議規程といった「組織規程」、就業規則や賃金規程、各種労使協定などの「人事労務規程」、販売管理規程や外注管理規程などの「業務規程」、その他にも経理規程やコンプライアンス規程、個人情報保護方針などを定める必要があり、どのような業態の企業でも数十に及ぶ規程類の整備とその運用が求められます。
2. 監査法人による監査
TOKYO PRO Market では、上場申請時に提出される「特定証券情報(又は発行者情報)」
に記載される直近の事業年度又は連結会計年度に係る財務諸表に対する監査報告書を添付することが求められます。従って、最低でも1年は監査法人による監査を受け、「無限定適正意見」を得なければなりません。
会計基準については、上場企業が適用している企業会計基準に基づいて作成しなければならず、いわゆる税法基準では認められません。このため、収益認識や税効果、連結、引当金、原価計算など、広範な範囲で新たに対応しなければならない処理とそのための社内業務体制の変更が求められます。
監査法人側も確認項目が多岐に及びますので、通常は会計監査の対象期を迎える前に、短期調査といった形で会計処理の変更が必要な項目を洗い出すための調査を実施します。場合によっては適正な会計処理が実施できず、監査法人からの監査意見が出ないために上場申請を延期せざるを得ない場面もあります。監査法人側の対応できる会社数にも限りがありますので、TOKYO PRO Marketへの上場を希望される会社は早めに監査法人に短期調査を依頼されることをお勧めします。
3. 資本政策の検討
TOKYO PRO Marketは株式の売り出しをせずに上場することが可能であるため、会社のオーナーが100%に近い形で株式を保有したまま上場することも可能です。
一方で、将来的に本則市場への導入を検討している場合や、従業員や外部協力者にもインセンティブとしてストックオプション制度を導入する場合には、資本政策について検討が必要となります。資本政策は会社法や税制とも関係していますので、導入する場合には専門家と十分に協議する必要があります。
スムーズな上場のために。FinanScope Managementのご紹介
TOKYO PRO Market には数値基準がないといっても、上述の通り実質基準を達成するために必要な事項は非常に多くあります。自社内のみで準備・対応するには非常に困難です。
FinanScope Management では、これらの必要事項を予めタスク化・必要書類をテンプレート化しており、スムーズな上場準備をサポートします。メールや Excel 等による複雑な業務管理からも解放され、専用のクラウドシステム上で管理できるツールです。TOKYO PRO Market への 上場 を目指されている経営者、支援専門家の方は是非ご活用ください。
記事は2023年10月1日現在のものです。