目次
概要
TOKYO PRO Market に上場を目指す企業は、J-Adviser による上場適格性に関する調査及び確認において、社内規程の整備及び運用状況が確認されます。そのため、上場準備期間中に社内規程を整備し、運用するための体制を構築することが必要となります。
本コラムでは、TOKYO PRO Market に上場を目指す際の、社内規程の整備及び運用の留意点について解説していきます。
社内規程の整備・運用の必要性
TOKYO PRO Market 上場に必要な上場適格性要件のひとつに以下の要件があります。
新規上場申請者のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、 企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること |
この要件を満たしているかを、担当 J-Adviser が調査・確認しますが、「社内規程が適切に整備され、実際に有効に運用されているか」が、調査・確認ポイントのひとつになると考えられます。そのため、上場準備期間中に、社内規程の整備を進め、運用を開始することが必要です。
必要な社内規程一覧
会社が TOKYO PRO Market に上場し、組織的にビジネスを行うためには、社内ルールや業務遂行のための指針を具体的に示した規程を網羅的に整備し、それらを実際に運用していくことが求められます。
整備する規程は、業種や企業規模によって異なりますが、一般的には下記の規程を整備することになると考えられます。
区分 | 規程名 |
基本規程 | ・定款 ・取締役会規程 ・監査役規程 ・執行役員規程 ・経営会議体規程 ・株式取扱規程 |
組織規程 | ・組織規程 ・職務分掌規程 ・職務権限規程 ・稟議規程 ・内部監査規程 |
業務規程 | ・与信管理規程 ・販売管理規程 ・購買管理規程 ・外注管理規程 ・在庫管理規程 ・ソフトウェア管理規程 ・ライセンス管理規程 ・固定資産管理規程 ・関連当事者取引管理規定 |
人事・労務規程 | ・就業規則 ・賃金規程 ・出張旅費規程 ・退職金規程 ・人事考課規程 ・テレワーク規程 ・育児、介護休業規程 ・慶弔見舞金規程 |
経理・財務規程 | ・経理規程 ・経理規程細則 ・予算管理規程 |
総務・法務規程 | ・文書記録保存規程 ・印章取扱規程 ・規程管理規程 ・インサイダー取引防止規程 ・情報セキュリティ規程 ・反社会的勢力排除に関する規程 ・内部通報規程 ・個人情報取扱規程 ・コンプライアンス規程 ・リスクマネジメント規程 |
なお、規程を補完するための細則や業務ガイドライン等も合わせて策定し、日々の業務における判断のよりどころを、より具体的かつ明確に示すことも必要となります。
どのタイミングで社内規定の整備・運用をスタートすればよいか?
J-Adviser による上場適格性に関する調査及び確認においては、必要な規程が網羅的に整備されていることに加えて、上場前の一定期間に渡って有効に運用されていることも確認されます。
つまり、社内規程の完成そのものが目的ではなく、実際に運用しながら適宜改善するための準備期間も考慮しておく必要があるため、上場の準備を開始したタイミングで、規程の整備を開始し、すべての社内規程が完成し次第、運用も開始することが望ましいです。
社内規定の整備・運用の確認ポイント
社内規程の整備及び運用にあたって、どのような点が確認ポイントになるかを5つの点に絞って解説します。
社内規定の整備・運用の確認ポイント ①規程は会社の実態に即しているか ②規程は法令等を遵守できているか ③規程間で矛盾が生じていないか ④規程を管轄する部署や改廃権限は明確に定まっているか ⑤規程は従業員に適切に伝達され、常に確認可能な状態か |
①規程は会社の実態に即しているか
規程は、会社の実態、つまり、その業種、規模、組織構造、業務内容等に即している必要があります。
一方で、上場を目指す企業は成長段階にあるため、事業規模や範囲の拡大に伴い、組織体制の変更や業務内容の変化等が頻繁に生じることが想定されます。
よって、規程は一度策定した後も、組織体制の変更や業務内容の変化等に伴って改訂することが求められ、規程を適時に改訂するプロセスも合わせて構築することが必要となります。また、規程に改訂するべき点がないかについて、年に1回程度見直すことも推奨されます。
②規程は法令等を遵守できているか
制定する規程は、各種法令等を遵守している必要があります。法令に違反する規程を制定すると、潜在的なリスクを抱えることになります。
特に、定款、取締役会規程、監査役規程,、就業規則、賃金規程、インサイダー取引防止規程、個人情報取扱規程等の法規制と密接に関連している規程に、法令に反する内容が含まれていないかどうかの注意が特に必要となります。
この時、規程の内容に法令違反となる事項が含まれていないかの確認を、弁護士や社会保険労務士等の専門家に依頼することも考えられます。
③規程間で矛盾が生じていないか
各規程は、それぞれが異なる目的や内容を持っていますが、互いに整合性をとる必要があり、各規程間で矛盾や食い違いがないか、また、全体として一貫性が保たれているかの確認が必要です。
例えば、ある規程で許可されている行為が、別の規程で禁止されているといった状況は避けるべきであり、すべての規程が一貫した基準や方針に基づいて策定されていることが求められます。同時に、各規程が他の規程を補完する形で存在しており、全体として網羅的なルールとなっていることが望まれます。
また、規程を改訂する際には、改訂する事項が他の規程に影響を及ぼす可能性があるため、関連する規程との整合性確認や規程間で矛盾が生じていないかの確認も同時に行うことが求められます。
④規程を管轄する部署や改廃権限は明確に定まっているか
各規程ごとに、管轄する部署や改定・廃止の権限を持つ者をあらかじめ明確に定めておく必要があります。
重要性が高い規程の改廃を行う際には、一般的には取締役会を改廃権限者として定めますが、管轄する部署の役員や責任者を改廃権限者として定めることもあります。
⑤規程は従業員に適切に伝達され、常に確認可能な状態か
各規程は、従業員に対して広く共有されることでその効果を発揮します。
そのため、規程を制定した後は、社内ポータルサイト等を通じて周知され、従業員全員が常に確認可能な状態とすることが必要です。
まとめ
本コラムでは、TOKYO PRO Market への上場を目指す際の、社内規程の整備及び運用に関する留意点について解説しました。
社内規程の整備及び運用は、TOKYO PRO Market 上場に必要な上場適格性要件のひとつであり、適切な整備及び運用を行うことで、企業のリスク管理及びコンプライアンスの強化に寄与する等の効果もありますが、限られた社内リソースのみで準備・対応するには困難な場面もあると想定されます。
そのような時は専門家のアドバイスを求めることや、各規程のテンプレート集が揃っている FinanScope Management などの上場支援ツールを活用することで、スムーズに上場準備を進めることができます。