デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬
2026年4月、東京証券取引所(東証)上場推進部が「TOKYO PRO Market への上場目的の開示のお願い」と題した資料を公表しました。
【参考】TOKYO PRO Marketへの上場目的の開示のお願い(PDF)2026年4月3日 東京証券取引所 上場推進部
以前のコラム(TPM 上場企業に求められる上場目的の開示と、その実務的インパクト)で解説した2月資料は、「なぜ上場目的を開示するのか」という方針・意義の話が中心でした。今回の資料は性格が異なります。「いつまでに」「どうやって」開示するのか、という実務レベルに踏み込んだ内容です。本コラムでは実務担当者の目線で整理してお伝えします。
目次
「開示企業一覧」に載る・載らないの意味
4月資料で新たに示されたのが、「開示企業の一覧化」という仕組みです。2026年7月から、上場目的を開示した TPM 上場企業について、JPX ウェブサイト上に一覧表を掲載する方針が明示されました。業種・証券コード・銘柄名・J-Adviser・開示先リンク・直近更新日が掲載され、投資家や市場関係者が各社の開示内容を横断的に確認できる環境が整備されます。
東証は開示を「義務」ではなく「お願い」として位置づけており、掲載されないことで直ちにペナルティが生じるわけではありません。ただし、一覧が公開された後に掲載のない企業は、投資家や金融機関から「開示に消極的な企業」として受け止められる可能性があります。一般市場へのステップアップや資金調達を視野に入れている企業にとって、掲載の有無は無視しにくい要素になるでしょう。
開示の具体的な手順 │ TDnet と表題の要件
「開示する」と決めた後、何をすればよいのか。資料には手続きの要件が明記されています。
開示は TDnet(適時開示情報伝達システム)を通じて行います。TPM 上場企業であれば既に利用している媒体のため、新たなシステムへの登録は不要です。公開項目は「その他の決定事実」(コード:199)を指定します。J-Adviser 経由で登録している会社も多いと思われます。

最も注意すべき要件が、開示書類の表題に「上場目的の開示」の文言を含めることです。東証はこの文言を参考に抽出して一覧表を作成すると想定されるため、表題の記載が欠けると一覧に反映されない可能性があります。内容が充実しているのに、掲載対象から漏れてしまうのはもったいないので、注意しましょう。
なお、初回の開示で終わりではなく、毎年1回以上、上場目的の実現状況を評価・開示することが求められます。目標が未達の場合は今後の対応方針も記載する必要があります。
スケジュールの逆算 │ 6月15日に間に合わせるには
今回の資料で最も重要なのが、初回の締め切りの明示です。
2026年6月15日までに開示した企業が、7月1日に一覧へ掲載されます。以後は毎月15日締め・翌月初掲載のサイクルで更新されます。7月1日の初回掲載を逃しても機会は継続しますが、一覧が公開される初日から掲載されているかどうかは、市場関係者への印象として一定の意味を持つでしょう。

開示にあたっては事前に担当 J-Adviser への相談が推奨されています。J-Adviser との調整・開示内容の文書化・TDnet での開示という一連のプロセスを考えると、5月下旬頃までには方向性を固めておきたいところです。適時開示資料ということで、取締役会の承認も必要になると考えられる。社内での上場目的の整理 → J-Adviser との協議 → 開示文書の確定(取締役会決議) → TDnet からの開示、という流れを逆算して動き始めることが重要です。
開示内容をどう考えるか │ 上場目的の言語化の実際
東証の資料では、上場目的の例として以下が示されています。
一般市場上場とその後の成長に向けた準備、資金調達・投資獲得、知名度・信用力の向上による企業規模・業績の拡大、社内体制整備に向けた段階的なステップとしての活用、既存株主への売却機会の提供、M&A・資本提携の相手となる事業会社の探索、などです。
上場目的に応じた追加的な情報開示も求められます。「一般市場上場とその後の成長」を掲げる場合には、中長期的な成長目標・成長戦略、上場目標時期・上場予定市場・上場準備スケジュールなどが想定されます。「資金調達・投資獲得」の場合は、自社のビジネスモデル・市場環境・競争優位性・成長戦略・リスクなどが参考例として挙げられています。
「一般市場を積極的に目指しているわけではない」という企業の場合、以前のコラムでも触れたように開示内容の設計が難しくなります。現実的には「長期的な選択肢として一般市場も視野に入れている」という趣旨を含めつつ、自社が TPM をどう活用しているかを具体的に記述する方向になるでしょう。
開示内容は社内外の共通メッセージになります。従業員には会社の方向性を、既存株主には EXIT シナリオの見通しを、金融機関や証券会社には資本政策の方向性を示すことになります。実態に即した内容を誠実に記述することが、中長期的な信頼につながります。
デジタルキューブとしての対応方針
デジタルキューブは TPM 上場企業(証券コード:263A)として、「TPM を活用しながら成長を目指す」という方向性をこれまでも発信してきました。ただし、一般市場への上場目標時期や上場予定市場については、現時点で公式には開示していません。
今回の東証の方針に照らせば、正面から向き合う必要があります。担当 J-Adviser との協議を進めながら、6月15日の初回掲載を目指して準備を進める方針です。私自身は、この対応を義務的なコンプライアンス作業として捉えるより、自社の成長戦略を改めて言語化する機会として活かしたいと考えています。「どの市場を、いつ頃を目安に目指すのか。そのために何を整えるのか」を経営チームで整理するプロセスは、J-Adviser や投資家との対話の質を高めることにもつながります。
まとめ │ 形式対応で終わらせないために
実務上の要点を整理します。初回掲載の締め切りは 2026年6月15日。開示は TDnet から、表題に「上場目的の開示」の文言を含めて行う。担当 J-Adviser との事前相談を経て、上場目的と追加的な情報開示の内容を固める。
手続き的にはシンプルですが、内容の設計には時間がかかります。3月決算の会社は年次決算業務が落着き次第、準備に取り掛かる必要があります。
東証は今回の一覧化を皮切りに、資金調達・投資獲得の支援(2026年秋以降)、J-Adviser による伴走の促進(2026年夏以降)、一般市場への上場審査の効率化(2026年秋めど)など、段階的な施策を予定しています。上場目的の開示は、こうした支援策を活用するための入口になります。
自社が TPM をどう活用するのか、その意図を明示することで初めて、市場・投資家・金融機関との実質的な対話が始まります。FinanScope は、TPM の上場支援のみならず、その先の一般市場へのIPO 支援も展開しており、開示書類の作成も支援しています。自社の目的と利害関係者のニーズに照らした現実的な文書作成なども対応可能です。何から手をつければよいかわからないという方は、ぜひご相談ください。
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