デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬
目次
当日をどう乗り越えるか
事前準備編では、招集通知の作成・発送から J-Adviser との確認フロー、ウェブサイトへの掲載まで、総会当日を迎えるまでの準備作業を解説しました。今回は「当日運営編」として、株主総会の本番当日にどう動くかを取り上げます。
当日の運営で多くの担当者が悩むのは、「何をどの順番でやればよいのかがわからない」という点です。専門会社に委託することも可能ですが、プロマーケット上場企業では社内のメンバーが分担して対応するのが現実的です。少人数での運営だからこそ、事前の準備が当日の落ち着きを左右します。
当日の役割分担 │ 少人数でも回せる体制をつくる
まず、当日に必要な役割を確認しましょう。株主総会の運営には最低限、以下の役割が必要です。
議長(通常は代表取締役)
株主総会を主宰する役割で、開会宣言から閉会まで議事を進行します。定款に別段の定めがなければ代表取締役が議長を務めます。
司会・進行補助
議長が議事進行に集中できるよう、時間管理や場内のアナウンスをサポートします。小規模な総会では議長が兼ねることもありますが、分担できると進行がスムーズになります。
書記(議事録作成担当)
議事の内容を記録し、後日議事録を作成する役割です。当日は発言内容や決議結果をメモし、録音も並行して行っておくと議事録作成の精度が上がります。
受付
出席株主の本人確認と議決権数の確認を行います。株主数が少ない場合でも、受付記録は議事録の根拠になるため省略しないようにしてください。
プロマーケット企業では株主数が限定的なため、管理部門のメンバー 2〜3 名で複数の役割を兼務するケースも多いと思います。「誰が何を担当するか」を当日の朝ではなく、総会日の少なくとも 1 週間前には確定させておくことをお勧めします。
司会進行文の準備 │ 生成 AI の活用で大幅に効率化できる
当日の進行で最も時間がかかる準備作業のひとつが、司会進行文(台本)の作成です。
議長が話すセリフ、司会がアナウンスする文言、質疑応答の開始・締め切りの宣言など、株主総会には一定の「型」があります。当社のケースでも、インターネット上で公開されているテンプレートを参考にすることも検討しましたが、自社の議案や株主数、議決権数に合わせて逐一書き換える作業が意外と手間でした。
そこで活用したのが生成 AI です。
具体的には、確定した招集通知をファイルごとアップロードし、議決権数や出席者数の見込みなど必要な情報を入力するだけで、自社の内容に即した司会進行文を作成してもらえます。テンプレートをベースに手作業で修正していたときに比べて、準備時間が大幅に短縮されました。
生成 AI を活用する際のポイントをいくつか紹介します。
招集通知をそのままインプットする
議案の内容・順序・議決権数などを改めて入力し直す手間が省け、記載漏れや数字の転記ミスを防げます。
「読み上げる文体」で出力するよう指示する
「会議の議事録」ではなく「当日に読み上げる台本」として作成してもらうことで、実際に口頭で読んだときに自然な文章になります。
想定 Q&A のたたき台も同時に作ってもらう
招集通知の内容をインプットすれば、議案ごとに想定される質問と回答のたたき台も生成できます。最終的な確認は必要ですが、ゼロから考えるよりはるかに効率的です。
実際のプロンプト例と出力イメージ
当社で使用したプロンプトのイメージは以下のとおりです。
添付した招集通知をもとに、株主総会の当日司会進行文を作成してください。 条件は以下のとおりです。
・議長は代表取締役〇〇が務めます
・出席株主数:〇名、出席議決権数:〇個(書面行使分〇個を含む。〇の部分は当日集計して入力するので空欄)
・議案は招集通知記載のとおり(例/第 1 号議案:取締役選任、第 2 号議案:監査役選任)
・当日に読み上げる台本として、自然な話し言葉で作成してください
・開会宣言から閉会宣言まで、一連の流れをすべて含めてください
このプロンプトに招集通知の PDF をアップロードして送信すると、以下のような形式で出力されます。
(出力例・抜粋)
【開会宣言】
「定刻となりましたので、ただいまより第〇期定時株主総会を開会いたします。本日ご出席の株主様は〇名、議決権の数は〇個でございます。書面にて議決権を行使いただいた株主様の議決権数〇個を合わせますと、議決権総数〇個のうち〇個、〇〇%に相当する議決権を有する株主様にご出席いただいております。」【第 1 号議案の上程】
「それでは第 1 号議案、取締役選任の件を上程いたします。本議案につきましては、招集通知の参考書類をご覧いただいているとおり、〇名の選任をお諮りするものでございます。」
出力例はあくまでイメージであり、自社の定款・議案内容・議決権数に合わせて必ず確認・修正が必要です。生成 AI の出力はあくまで素材として扱い、代表取締役や J-Adviser・信託銀行 と内容を最終確認したうえで使用してください。特に決議要件の記載(普通決議・特別決議の区別)や議決権数の数字は、必ず人の目で照合することが重要です。
当日の進行 │ 開会から閉会までの流れ
司会進行文が完成したら、当日の流れを頭に入れておきましょう。株主総会の標準的な流れは以下のとおりです。
1. 開会前(受付)
出席株主の受付を行い、議決権行使書の回収と出席者リストの確認をします。開会時刻の 15〜30 分前には受付を開始するのが一般的です。書面で議決権行使をした株主の数と議決権数については、通常は前日が期日になっているかと思いますので、期限後に集計しておきます。
2. 開会宣言・定足数の確認
議長(代表取締役)が開会を宣言します。会社法上、株主総会には「定足数」の概念がありますので、定足数を満たしているか確認しておきましょう。出席議決権数の総数も冒頭で報告します。
3. 報告事項
事業報告および計算書類の内容を報告します。監査役設置会社であれば、監査役からの監査報告も行います。
4. 決議事項(議案の審議)
各議案について、議長が説明し、質疑応答を経て採決します。採決は挙手・拍手など方法を問いませんが、採決結果(賛成議決権数・反対議決権数、可決・否決の別)を議事録に記録するため、書記が正確に把握できる方法を選んでください。
5. 質疑応答
議案の審議と別に、株主からの質問を受ける時間を設けます。顔の見える株主が多いプロマーケット企業の場合、和やかな雰囲気の中で質問が出ることもありますが、一般市場と同様に「株主総会の場としての節度」を保った進行を心がけましょう。
6. 閉会宣言
すべての議案の審議が終了したら、議長が閉会を宣言します。
想定 Q&A の準備 │ 答えられない質問への対応も決めておく
質疑応答は、担当者が最も緊張する場面のひとつです。事前に想定 Q&A を準備しておくことで、当日の落ち着きが大きく変わります。
想定 Q&A を準備する際の基本的な考え方は、「招集通知に書いてあることから質問が来る」という前提に立つことです。事業報告の内容、計算書類の数字、各議案の理由・背景について、株主から掘り下げた質問が来ることを想定して回答を用意しておきます。
また、答えられない質問が来た場合の対応も事前に決めておきましょう。「持ち帰って確認します」「別途ご連絡します」という形で対応することは、株主総会の場でも許容されます。その場で無理に答えようとして誤った情報を伝えるよりも、誠実に「確認してご連絡します」と伝えるほうが信頼につながります。
代表取締役と担当役員・担当者の間で、「この質問はどちらが答えるか」の役割分担も事前に整理しておくと、当日の対応がスムーズになります。
議事録の作成 │ 当日に確認すべきポイント
株主総会の議事録は、会社法上、総会終了後 10 年間の本店保管が義務付けられています。また、登記事項の変更が生じた場合には、議事録を法務局に提出する必要があります(第 3 回「事後対応編」で詳しく解説します)。
議事録に記載すべき主な事項は以下のとおりです。
- 開催日時・場所
- 出席した取締役・監査役等の氏名
- 出席株主数および出席議決権数(委任状・書面行使分を含む)
- 議事の経過の要領(報告事項・各議案の審議内容)
- 各議案の採決結果(賛成・反対の議決権数、可決・否決の別)
- 議長および出席取締役の署名または記名押印
当日の書記は、これらの情報を漏れなく記録することを意識しながらメモを取ってください。録音を取っておくと、発言内容の正確な把握に役立ちます。
ひとつ注意が必要なのは、議事録の記載内容と押印については、法務局で受け入れ可能な形式にしておく必要がある点です。当社でも一度、議事録の細かな記載や記名・押印の形式が法務局の要件を満たさず、再作成が必要になったことがあります。登記に必要な議事録は、事前に司法書士に記載内容と押印方法を確認しておくことを強くお勧めします。特に登記申請には 2 週間以内という期限があるため、議事録の再作成が発生すると時間的な余裕がなくなります。この点については次回の「事後対応編」でも改めて触れます。
まとめ │ 当日運営の要点と次回予告
当日運営編では、株主総会本番の役割分担から進行の流れ、生成 AI を活用した司会進行文の作成、議事録の注意点まで解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。
- 役割分担(議長・司会・書記・受付)は少なくとも 1 週間前に確定させる
- 司会進行文は生成 AI を活用することで準備時間を大幅に短縮できる。ただし決議要件・議決権数は必ず人の目で確認する
- 質疑応答は想定 Q&A を事前に準備しておく。答えられない質問には「確認してご連絡します」で対応する
- 議事録の記載内容と押印形式は、法務局提出を見据えて事前に司法書士に確認しておく
次回の「事後対応編」では、総会後の登記申請・適時開示の手続き、議事録の保管要件、そして次回総会に向けた振り返りについて解説します。
無料相談会のご案内
「はじめての株主総会、何から手をつければいいかわからない」「自社対応で問題ないか、専門家に確認したい」という方へ。FinanScope では、IPO や M&A の実務経験豊富な公認会計士による無料個別相談会を実施しています。
相談可能な内容
- 上場準備における必要タスクの明確化と進め方
- 監査法人・証券会社・J-Adviser のご紹介
- 上場後の運営管理における FinanScope の具体的な活用方法
- 株主総会の準備スケジュールや必要タスクの整理
特徴
- 場所や時間を選ばないオンライン相談
- 上場前から運営が軌道に乗る前の企業まで、状況を問わず相談可能
- 無料(相談料はいただきません)
ご相談はこちらから
https://meetings.hubspot.com/takuma6/finanscope-online
「地方から、新しい可能性を切り拓く」。一社一社の状況は異なりますが、その挑戦を私たち FinanScope は全力で支援します。