TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の資金調達を徹底解説 ─ エクイティ・デット・ストックオプション、上場前から上場後まで

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の資金調達を徹底解説 ─ エクイティ・デット・ストックオプション、上場前から上場後まで

株式会社デジタルキューブ 取締役 和田拓馬(公認会計士・税理士)

「TPM に上場すれば、資金調達ができるようになりますか?」

上場を検討する経営者の方から、この質問を受ける機会は少なくありません。答えは「Yes」ですが、実態はケースバイケースかと思われます。

TOKYO PRO Market(以下、TPM)における資金調達の選択肢は、株式発行(エクイティファイナンス)だけではありません。金融機関からの借入・社債発行(デットファイナンス)、そして役職員へのストックオプション発行という、3 つの軸があります。しかも実態データを見ると、最も広く活用されているのはエクイティではなく、デットです。

私自身、2024年10月に株式会社デジタルキューブ(証券コード:263A)の取締役として TPM 上場を実現し、上場後に2回のエクイティファイナンスを実施した当事者です。上場準備から実際の資金調達まで、当事者として経験を持っています。

本コラムでは、TPM 上場企業の資金調達の全体像を整理し、「どの手段を、いつ、どのように使うか」の判断基準を提供します。各手段の詳細については、既に公開しているコラムへご案内しますので、関心のある章から読み進めてください。

目次

1. まず数字を正直に見る ─ TPM の主役は上場による信用力向上を活かしたデットファイナンス

TPM の資金調達を語る前に、一つの重要な事実をお伝えしなければなりません。

東証が 2026年2月に公表した「プロマーケットの今後の方向性について」のデータによると、TPM へ上場時に株式による資金調達または売出しを実施した企業は全体の約5%(7社)にとどまります。残る約 95% の企業は、株式発行を伴わずに上場しています。

上場後(直近5年間)の状況も同様です。株式による資金調達を実施した企業は8%(12社)、株式の売出しを実施した企業は1%(1社)にとどまっています。

一方で見落としてはならない数字があります。同じ期間に借入・社債を実施した企業は45%(67社)にのぼります。エクイティファイナンスの活用率をはるかに上回る数字であり、TPM 上場後もデットファイナンスが中心として活用されていることが読み取れます。

手段実施企業数割合
上場時:株式による資金調達6 社約 4%
上場時:株式の売出し1 社約 1%
上場後:株式による資金調達(直近 5 年)12 社約 8%
上場後:株式の売出し(直近 5 年)1 社約 1%
上場後:ストックオプション発行(直近 5 年)22 社約 15%
上場後:借入・社債(直近 5 年)67 社約 45%

(出所:東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」2026年2月。上場後数値は2025年9 月時点の上場会社を対象に2020年10 月以降のコーポレートアクションを集計)

つまり TPM における資金調達の「主役」は、イメージされるようなエクイティファイナンスではなく、上場による信用力向上を活かしたデットファイナンスなのです。

2. TPM における資金調達の手段 4 種類

上記データを踏まえた上で、TPM 上場企業が活用できる資金調達の手段を整理します。大きく以下の4種類があります。

手段① 上場時のエクイティファイナンス(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘)

TPM への上場と同時に、プロ投資家を対象とした株式発行(増資)または既存株主からの売出しを実施する方法です。活用企業は限定的ですが、数億円規模の調達実績が複数存在します。

手段② 上場後のエクイティファイナンス(第三者割当増資)

TPM 上場後に、特定の引受先(事業会社・ファンド・個人投資家など)に対して新株を発行する方法です。資金調達と同時に資本関係を構築できる点が特徴です。

手段③ デットファイナンス(借入・社債)

銀行借入や社債発行による資金調達です。上場による信用力向上・財務の透明性向上が貸出条件の改善をもたらす点で、TPM 上場との相性が最も良い手段です。

手段④ ストックオプション(新株予約権の発行)

現金を支出せずに、役員・従業員・社外協力者に対してインセンティブを付与する方法です。採用競争力の強化や、M&A における対価としての活用など、資金調達以外の文脈での活用事例も多くなっています。

以下の章で、各手段の実態と実務上のポイントを順に解説します。

3. 【エクイティ①】上場時の株式調達 ─ 7社の事例と「証券会社が必要になる」仕組み

調達実績の概要

2018年から2025年にかけて、TPM 上場時にエクイティファイナンスを実施した企業は7社です。内訳は増資(特定投資家向け取得勧誘)が6社、売出し(特定投資家向け売付け勧誘)が1社となっています。

上場年会社名種別調達金額
2018年筑波精工取得勧誘(増資)約 8.7 億円
2019年STG取得勧誘(増資)約 2.5 億円
2021年五健堂ホールディングス取得勧誘(増資)約 9.4 億円
2021年アーバンライク取得勧誘(増資)約 1.9 億円
2024年BABY JOB売付け勧誘(売出し)約 1.6 億円
2025年NPT取得勧誘(増資)約 3.1 億円
2025年山本通産取得勧誘(増資)約 1.9 億円

(出所:東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」2026年 2 月及び各社IRサイト)

調達金額は約1.9億円から約9.4億円と幅広く、製造業・サービス業・ヘルスケアなど業種も多様です。2025年にも2社が実施しており、一過性ではなく継続的な選択肢として定着しつつあることが確認できます。

J-Adviser だけでは完結しない ─ 証券会社の役割

TPM 上場時に資金調達を行う場合、通常の上場(J-Adviser のみ)とは異なり、証券会社が主幹事として関与します。金融商品取引法上、株式の募集・売出しに係る証券業務には証券業免許が必要なためです。

証券会社の主な業務は、想定発行価格の算定、特定投資家へのプレマーケティング(一般市場のロードショーに相当)、発行価格の仮条件決定、払込手続きの実行などです。J-Adviser は上場適格性の審査と上場後のモニタリングを担い、証券会社は資金調達の実務を担う ── という役割分担になります。

過去の実績では、アイザワ証券、JIA 証券、リーディング証券が主幹事証券会社を務めました。J-Adviser 資格保有機関(22社)と比べると、TPM 上場時の資金調達で実績を持つ証券会社は限られているため、資金調達を検討する場合は早期から J-Adviser に相談し、実績のある証券会社の紹介を受けることが現実的な進め方となります。

上場時のエクイティファイナンスの詳細(調達方法の仕組み・各社の事例分析・証券会社との連携実務)については、別コラム「TPM 上場時の資金調達実態 〜7社の事例から見る調達金額や Exit〜」で詳しく解説しています。

4. 【エクイティ②】上場後の第三者割当増資 ─ 「継続的な資金調達」の実態

上場後のエクイティファイナンスの特徴

TPM 上場後の資金調達において、株式発行の基本手段は第三者割当増資です。一般市場のような不特定多数の投資家を対象とした公募増資ではなく、特定の引受先を定めて新株を発行する形態になります。

デジタルキューブが調査した TPM 上場企業9社の事例では、調達金額は約800万円から3億6,500万円と幅があり、実施回数も1回から8回と多様でした。小規模な調達を複数回にわたって実施する企業もあれば、1回で一定金額を調達する企業もあります。規模と頻度が企業の成長段階やニーズに応じて柔軟に設計できる点は、一般市場との大きな違いです。

デジタルキューブ自身も、2024年10月の TPM 上場後に2回のエクイティファイナンスを実施しました。その経験から感じているのは、「誰を株主として迎えるか」という視点が、単なる資金調達以上の意味を持つということです。事業会社との資本提携を通じて事業シナジーを生み出すケース、M&A の対価として株式を活用するケース、優秀な個人投資家を経営アドバイザーとして取り込むケースなど、資本関係と事業関係を同時に設計できる柔軟性が、第三者割当増資の本質的な価値です。

上場後エクイティファイナンスの留意点

一方で、TPM 上場後の資金調達には実務上の留意点もあります。

まず、引受先の確保です。一般市場のように多数の投資家が日々売買する市場ではないため、引受意向を持つ特定投資家を自ら見つける必要があります。J-Adviser や既存の株主・取引先ネットワークを通じた探索が基本になります。

次に、将来のステップアップを見据えた株主設計です。一般市場(東証グロース市場の場合)へのステップアップには株主数150人以上・流通株式比率25% 以上などの形式基準があります。第三者割当増資の引受先と発行株数を設計する段階で、ステップアップ時の基準充足を逆算して株主設計を進めておくことが重要です。

上場後のエクイティファイナンスの詳細(9社の事例分析・引受先の探し方・実務フロー)については、別コラム「TPM 上場後の資金調達 ── 実例から読み解くエクイティファイナンスの実務と制度」をご参照ください。

5. 【デット】借入・社債 ─ 45% が活用する「見えにくい主役」

なぜデットが最も広く活用されているのか

「TPM 上場 = 株式による資金調達」というイメージを持つ方は多いですが、実態は借入・社債の活用が最も広い手段です。直近 5 年で約45%(67社)が実施しており、エクイティファイナンス(8%)の5倍以上の活用率となっています。

背景には、TPM 上場がもたらす信用力の構造的変化があります。TPM に上場するということは、監査法人による会計監査を受け、J-Adviser によるコンプライアンスチェックをクリアし、適時開示を行っている「公器」として認定されることを意味します。財務の透明性が担保されることが金融機関にとっての強力な信頼シグナルとなり、デットの条件改善につながります。

東証が公表した「プロマーケットの今後の方向性について」に掲載された上場企業の声には、「TPM 上場後、銀行からの借入が圧倒的にしやすくなり、業績が大きく伸びた」「経営者保証が外れることで事業承継がしやすくなる」という実感が紹介されています。エクイティファイナンスを実施しなくても、上場による信用補完がデットの条件改善を通じて事業成長に直結する ── そのような実態が数字の背後にあります。

上場前後で何が変わるか

未上場の中小企業が金融機関から融資を受ける際、多くのケースで「経営者個人保証」が求められます。会社が返済できなくなった場合、経営者個人が代わりに返済する仕組みです。事業承継においても個人保証は大きな障壁となります。

TPM 上場後は、第三者機関による継続的な財務監査と開示義務を果たした企業として認定されるため、個人保証の解消または条件緩和につながるケースが生まれます。「個人資産が常にリスクにさらされている状態を解消したい」という経営者にとって、TPM 上場はエクイティ調達以上に実質的な意義を持ち得ます。

業種別の効果の違い

デットファイナンスへの効果は、業種によって大きく異なります。

不動産業・建設業
これらの業種にとって、TPM 上場が持つデットへの効果は特に大きくなります。土地の仕入れや物件購入に多額の先行投資が必要なこれらの業種では、金融機関からの融資枠が常に成長のボトルネックになりがちです。上場によって財務の透明性が担保されることで、融資枠の拡大と金利条件の改善が期待できます。

IT・サービス業
担保となる有形固定資産が少ないため、従来は金融機関からの借入が難しいケースも多い業種です。上場企業としての信用力が「担保代わり」として機能し、無担保または低担保での融資が現実的な選択肢になります。

地方の中小企業
地域金融機関との関係に上場という実績が加わることで、地元銀行との取引条件が改善されるケースが見られます。J-Adviser 資格を持つ地方金融機関も増えており、上場準備段階から金融機関との連携を深められる環境が整ってきています。

社債発行という選択肢

借入以外のデット手段として、社債発行もあります。特定少数の投資家(プロ投資家・事業会社)を引受先とする私募社債は、TPM 上場企業が調達できる柔軟な手段です。返済期限・金利・特約条項を相対で設計できるため、事業特性に合わせた条件設定が柔軟にできる点も特徴です。

6. 【ストックオプション】15% が発行 ─ キャッシュを使わない人材・パートナー戦略

ストックオプションとは何か

ストックオプション(SO)とは、自社株式をあらかじめ定められた価格(行使価額)で取得できる権利(新株予約権)のことです。権利行使時点で株価が行使価額を上回っていれば、差額が利益になります。

TPM 上場企業のうち、直近5年でストックオプションを発行した企業は22社(15%)となっています。現金を支出せずに優秀な人材や経営パートナーへのインセンティブを設計できる点で、資金調達とは異なる次元で活用できる手段です。

活用場面 ① 役員・従業員へのインセンティブ設計

TPM 上場により株式に市場価値がつくことで、ストックオプションが有効なインセンティブとして機能します。優秀な管理部門人材や経営幹部の採用において、現金報酬に加えてストックオプションを提示することで、競合他社との報酬競争で差別化が図れます。

特にステップアップ上場を視野に入れている企業の場合、「一般市場上場時に株式価値が高まることで SO の価値も上がる」というストーリーを描けるため、長期的なコミットメントを促す報酬設計を描けます。

活用場面 ② M&A における株式対価

事業会社や優秀な個人に対してストックオプションを付与し、資本関係を通じた協力関係を構築する活用例もあります。買収資金を現金で用意できない場合でも、株式価値の上昇を対価として共有することで、連携の枠組みを構築できます。

活用場面 ③ 社外協力者への報酬代替

顧問や特定のプロジェクトに関与する外部専門家への報酬をストックオプションで代替することで、初期の現金支出を抑えながら質の高い外部リソースを確保する方法もあります。特に上場準備段階で現金余力が限られている企業にとって、有効な選択肢となり得ます。

実務上の留意点

ストックオプションの設計において最も重要なのは、行使価額の設定です。行使価額が現在の株式価値より著しく低い場合は税務上の問題が生じる可能性があるため、公認会計士・税理士との連携が不可欠です。また、発行可能な新株予約権の総数は定款で制限されており、将来のステップアップ時の資本政策にも影響します。発行前に資本政策全体との整合性を確認することが重要です。

7. 自社に合った資金調達戦略をどう設計するか

「資金調達の目的」が先、「手段」が後

TPM 上場における資金調達の失敗パターンの多くは、「手段」が「目的」より先走ることです。「上場したから増資できる」という発想ではなく、「何のための資金か、いつまでにいくら必要か、その調達によって誰を株主として迎えるのか」を先に言語化することが出発点になります。

目的別に手段を整理すると、以下のような整理になります。

事業投資・設備投資の資金
返済義務があっても良い場合はデット(借入)が最適です。株式の希薄化を避けながら必要な資金を確保できます。不動産・建設・製造業では上場後の信用力向上を活用したデットが特に効果を発揮します。

長期的な成長資金・新規事業への投資
エクイティファイナンスが適しています。返済義務がなく、事業リスクを投資家と共有できます。引受先を事業パートナーとして位置づけることで、資金以外の価値(取引関係・ネットワーク・知見)も同時に獲得できる点が魅力です。

人材確保・組織強化
ストックオプションの活用が効果的です。現金支出を抑えながら、採用競争力と既存人材の定着率を高められます。

事業承継・個人保証解消
デットの条件改善(個人保証解除)という間接的な効果が大きく、上場そのものが資金調達以前の課題を解決する手段になります。

タイムラインで考える ─「いつ」を設計する

TPM の資金調達は、上場準備段階から上場後の成長ステージにかけて、段階的に設計することが合理的です。以下のようなタイムラインが一般的な考え方の枠組みになります。

上場準備期(上場の 2 年前〜)

資金調達の全体計画を設計します。「上場時に調達するか、上場後に調達するか」「エクイティとデットのバランスをどう設計するか」を J-Adviser および顧問の公認会計士・税理士と協議します。ステップアップを見据える場合は、一般市場の形式基準(株主数・流通株式比率)から逆算した資本政策の設計をこの段階から始めます。

上場時(上場と同時に調達する場合)

資金調達を伴う上場を選択する場合、J-Adviser に加えて証券会社との連携が必要になります。プレマーケティングや発行価格設定などのプロセスが加わるため、準備期間は資金調達なしの場合より長くなります。「調達目的と使途の明確化」「引受先の確保」「証券会社の選定」の3点を早期から準備しておきます。

上場後(成長ステージに応じて)

第三者割当増資・借入・ストックオプションを、事業の成長ステージに合わせて組み合わせていきます。東証の 2026年新方針では、TPM 上場企業による資金調達・投資獲得の支援として、クロスオーバー投資家との対話イベント開催や資金調達時の上場料金見直しが 2026年秋以降に予定されています。TPM での資金調達環境が整いつつある点は、上場後の成長資金調達を検討する企業にとって追い風です。

まとめ ─ TPM の資金調達は「信用力の変化」から始まる

本コラムで解説した内容を整理します。

TPM 上場企業の資金調達において、エクイティファイナンスを実施する企業は上場時・上場後ともに少数派です。最も広く活用されているのは借入・社債(45%)であり、上場がもたらす信用力向上を梃子にしたデットファイナンスが、多くの TPM 上場企業の成長を支えています。エクイティファイナンスは選択する場合には強力な手段ですが、それ自体が目的になるべきものではありません。ストックオプションは現金支出を伴わないインセンティブ設計として、採用・人材戦略の観点から有効な選択肢です。

「どの手段を選ぶか」の前に「何のために、いつ、いくら必要か」を明確にすること ── それが TPM における資金調達戦略の出発点です。

各手段の詳細については、以下の関連コラムで詳しく解説しています。

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