TPM 上場時の資金調達実態 〜7社の事例から見る調達金額や Exit〜

TPM 上場時の資金調達実態 〜7社の事例から見る調達金額や Exit〜

デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬

TOKYO PRO Market(TPM)への上場を検討する際、「資金調達は本当にできるのか?」という疑問を持つ方は少なくありません。TPM は形式基準がなく上場しやすい市場として知られていますが、資金調達の面では一般市場と比べて情報が限られているのが現状です。

しかし、実際には上場時に数億円規模の資金調達を実施している企業が存在します。本コラムでは、2018年から2025年までに上場時資金調達及び売出しを実施した7社の具体的な事例をご紹介します。

上場を支援する立場の方々(公認会計士、税理士、地方銀行の担当者など)にとってはクライアント企業への提案材料として、また上場を検討される事業者の方々にとっては自社の資金調達計画を考える上での参考情報としてお役立ていただけます。

TPM 上場時の資金調達方法について

TPM では、特定投資家(プロ投資家)を対象とした資金調達が可能です。主な方法として「特定投資家向け取得勧誘」と「特定投資家向け売付け勧誘等」の2つがあります。

特定投資家向け取得勧誘とは

新株を発行して資金を調達する方法です。一般市場における第三者割当増資に相当するもので、企業が新たに株式を発行し、特定投資家がそれを引き受けることで資金が企業に入ります。調達した資金は事業拡大や設備投資などに活用できます。

特定投資家向け売付け勧誘等とは

既存株主が保有する株式を特定投資家に売却する方法です。一般市場における売出しに相当するもので、創業者や既存株主が一部の株式を売却することで資金を得ます。この場合、資金は売却した株主に入り、企業自体には資金は入りません。

一般市場との主な違い

最も大きな違いは、投資家が「特定投資家」に限定されることです。特定投資家には、金融機関などの適格機関投資家、上場会社、資本金5億円以上の株式会社、一定の要件を満たす個人投資家などが含まれます。不特定多数の一般投資家を対象とする一般市場と比べて、投資家の数は限られますが、その分柔軟な条件設定が可能になります。

実際の調達事例(7社のデータ)

2018年から2025年(2025年11月現在)までに TPM 上場時に資金調達を実施した企業のうち、資金調達6社及び売付け1社の事例を以下に示します。

TPM 上場時に資金調達を実施した企業

上場日会社名コード証券会社方法金額(円)
2025/07/18山本通産(株)385AJIA証券
株式会社
取得
勧誘
187,425,000
2025/01/30(株)NPT311Aアイザワ証券
株式会社
取得
勧誘
311,280,000
2024/12/19BABY JOB(株)293Aアイザワ証券
株式会社
売付け
勧誘
160,075,000
2021/10/08(株)五健堂ホールディングス9146藍澤證券
株式会社
取得
勧誘
918,850,000
2021/07/28(株)アーバンライク2992リーディング証券
株式会社
取得
勧誘
189,090,000
2019/06/26(株)STG5858藍澤證券
株式会社
取得
勧誘
248,950,000
2018/11/28筑波精工(株)6596リーディング証券
株式会社
取得
勧誘
875,000,000

調達金額の分布

最小で約1億8,000万円から最大約9億円まで、企業規模や事業計画によって幅があります。TPM における資金調達が、大企業に限らず中堅・中小企業でも実現可能であることを示しています。

調達時期の傾向

2018年から2025年まで継続的に資金調達事例が発生しており、特に2025年には2社(2025年11月現在)が上場時資金調達を実施しています。TPM 上場時の資金調達が一過性のものではなく、継続的な選択肢として定着しつつあることを示唆しています。

データから見える傾向と特徴

7社の事例を分析すると、いくつかの興味深い傾向が見えてきます。

取得勧誘(増資)が主流

7社のうち6社が「特定投資家向け取得勧誘」を選択しており、約85%(2025年11月現在)を占めます。企業が事業成長のために新たな資金を必要としているケースが多いことを示しています。売付け勧誘(既存株主による売却)を選択したのは1社のみです。

調達金額は企業の成長戦略次第

調達金額を見ると、1億円台から9億円台まで幅があります。企業の規模や業種、資金使途によって柔軟に調達規模を設定できることを示します。例えば、設備投資が必要な製造業と、人材投資が中心のサービス業では、必要な資金規模が異なるのは当然です。

近年も継続的に実施されている

特筆すべきは、2025年にも2社が資金調達を実施している点です(2025年11月現在)。TPM 市場が成熟するにつれて、上場時資金調達のノウハウが蓄積され、より多くの企業が活用できるようになってきていると考えられます。

資金調達における証券会社の役割

TPM 上場時に資金調達を行う場合、J-Adviser とは別に、証券会社が重要な役割を担います。資金調達を検討する上で理解しておくべき重要なポイントです。

証券会社の主な業務

資金調達を伴う TPM 上場では、証券会社が以下の業務を担当します。

想定発行価格の算定
発行価格の基礎となる金額を証券会社が算定します。企業の業績、成長性、類似企業との比較などを総合的に勘案して価格を決定します。

プレマーケティングの実施
一部の投資経験豊富な投資家(企業や個人)に対して、企業概要や事業内容を説明し、購入希望の有無や適正株価についての意見を聴取します。一般市場における機関投資家向けロードショーに相当するものです。

発行価格の仮条件決定
プレマーケティングの結果を基に、発行価格の「仮条件」(価格レンジ)を決定します。企業の取締役会でこれを承認します。

特定投資家への募集活動
決定した条件で特定投資家に対して株式購入の申込意思確認を行います。

払込手続きの実行
払込期日に払込が実行されると、企業への入金や投資家の証券口座への記録が行われます。

J-Adviser との役割分担

ここで重要なのは、J-Adviser と TPM 上場における証券会社の役割は明確に区別されるという点です。

J-Adviser の役割

  • 上場適格性の審査
  • 上場準備全般のサポート
  • 東京証券取引所への上場申請手続き
  • 上場後の継続的なモニタリングと助言・指導

証券会社の役割(資金調達を行う場合)

  • 発行価格の算定
  • 投資家への募集活動
  • 資金調達に関する実務手続き

つまり、資金調達を行わない場合は J-Adviser のみとの契約で上場できますが、資金調達を行う場合は J-Adviser に加えて証券会社との連携が必要になります。

主幹事証券会社の要件

株式の募集や売出しといった証券業務を行うには、金融商品取引法に基づく証券業の免許が必要です。そのため、資金調達を伴う TPM 上場では、証券会社が主幹事として関与することになります。

今回ご紹介した6社の事例では、アイザワ証券(旧:藍澤證券)、JIA 証券、リーディング証券が主幹事証券会社を務めています。

J-Adviser 資格保有者の実態

参考までに、J-Adviser 資格を持つ組織について説明します。2025年11月現在、J-Adviser 資格を保有しているのは21社ですが、その内訳は証券会社だけではありません。日本 M&A センター、宝印刷といったコンサルティング会社や印刷会社も J-Adviser 資格を保有しています。

J-Adviser の主な役割は上場適格性の審査と上場後のモニタリングであり、証券業務を行う必要はないため、証券会社以外の組織も J-Adviser になることができます。

資金調達実績のある証券会社は限定的

一方で、TPM 上場時の資金調達で実績を持つ証券会社は、J-Adviser 資格保有者21社(2025年11月現在)と比べると限られています。資金調達を検討する企業にとっては、実績のある証券会社を見つけることが一つの課題となる可能性があります。

上場後の資金調達も可能

TPM における資金調達の選択肢は、上場時だけに限られません。上場後も第三者割当増資による資金調達が可能です。

継続的な資金調達の選択肢

企業の成長は一度の資金調達で完結するものではありません。事業環境の変化や新たな成長機会に応じて、追加の資金が必要になる場面は多々あります。TPM では、上場後も特定投資家を対象とした第三者割当増資を実施することで、事業成長のステージに応じた柔軟な資金調達が可能です。

成長戦略における重要性

上場時だけでなく、上場後も継続的に資金調達の選択肢を持つことは、企業の成長戦略において重要な意味を持ちます。例えば、新規事業への参入、M&A の実施、大型設備投資など、タイミングを逃さず機動的に動けることが競争優位につながります。

TPM 上場時の資金調達を検討する際のポイント

実際に TPM 上場時の資金調達を検討する際、押さえておくべきポイントをまとめます。

調達目的と金額の明確化

まず重要なのは、「何のために、いくら必要なのか」を明確にすることです。漠然と「資金があれば良い」という姿勢では、投資家からの信頼を得ることは困難です。設備投資、運転資金、M&A 資金など、具体的な使途と必要金額を明示できるよう準備しましょう。

早期からの計画策定

資金調達を伴う上場は、資金調達を行わない場合と比べて準備期間と関係者が増えます。上場準備の早い段階から資金調達計画を検討し、J-Adviser や証券会社と連携体制を構築することが重要です。

専門家との綿密な相談

TPM 上場時の資金調達は、J-Adviser と証券会社の両方との連携が不可欠です。それぞれの役割を理解した上で、計画段階から綿密に相談することをお勧めします。

支援者の方へ

公認会計士、税理士、地方銀行の担当者など、上場支援に携わる方々にとって、本コラムでご紹介した7社の実例データは、クライアント企業への提案時に活用できる貴重な情報です。

「TPM では資金調達できない」という誤解を持つ経営者は少なくありません。実際には1.8億円から9億円規模の資金調達事例があることを示すことで、TPM 上場を現実的な選択肢として検討してもらうきっかけになります。

また、資金調達を伴う場合は、J-Adviser だけでなく証券会社との連携体制構築も視野に入れた提案が必要です。クライアント企業の状況に応じて、実績のある証券会社の紹介も検討しましょう。

事業者の方へ

TPM 上場を検討される事業者の方にとって、資金調達は重要な検討項目の一つです。自社の成長戦略に合わせて、「上場時に資金調達するのか」「上場後に検討するのか」「当面は銀行借入で対応するのか」といった選択肢を比較検討しましょう。

資金調達を検討する場合は、まず J-Adviser に相談することをお勧めします。J-Adviser を通じて実績のある証券会社の紹介を受けることも可能ですし、全体のスケジュール感や必要な準備について助言を得ることができます。

まとめ

本コラムでは、TPM 上場時の資金調達について、7社の実例データを基に解説してきました。

  • TPM 上場時に1.8億円から9億円規模の資金調達を実施した企業が実際に存在する
  • 取得勧誘(増資)による調達が主流で、2025年も継続的に事例が発生している(2025年11月現在)
  • TPM 上場時の Exit 事例も出てきている
  • 資金調達を行う場合、J-Adviser に加えて証券会社との連携が必要
  • 上場後も第三者割当増資による継続的な資金調達が可能

TPM 上場時の資金調達は、決して特殊なケースではなく、企業の成長戦略に応じて選択できる現実的な選択肢です。一般市場と比べて投資家が限定されるため大規模な調達は難しい面もありますが、数億円規模の調達であれば十分に実現可能性があることが、今回の事例分析からも確認できました。

上場を支援する立場の方も、検討される事業者の方も、早期の計画策定と専門家との連携が成功の鍵となります。J-Adviser や証券会社といった専門家の知見を活用しながら、自社に最適な資金調達計画を構築していくことをお勧めします。

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TPM 上場や資金調達をご検討の際は、ぜひご相談ください。

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