東証資料から読み解く「TPM上場を検討する企業が今すべきこと」〜 戦略的準備で2年後のステップアップを実現する

東証資料から読み解く「TPM上場を検討する企業が今すべきこと」〜 戦略的準備で2年後のステップアップを実現する

デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬

2025年11月、東京証券取引所が公表した「プロマーケットの今後の方向性について」は、TOKYO PRO Market(TPM)を「一般市場上場とその後の成長を目指す企業が集う市場」として再定義する重要な資料です。

【参考】プロマーケットの今後の方向性について(PDF)2025年11月13日 東京証券取引所 上場推進部

この資料では、グロース市場の基準厳格化を背景とした企業行動の変化、TPM を取り巻く環境変化、そして東証が描く今後の具体的な施策が詳細に示されています。私としては、以下の4点が特に重要なポイントだと考えています。

重要なポイント

  1. コンセプトの転換:「一般市場上場とその後の成長を目指す企業が集う市場」へ
  2. 機能強化:マーケット本来の機能(資金調達・流通)の強化
  3. 可視化:成長意欲のある企業を投資家に示す仕組みづくり
  4. 効率化:TPM での実績を評価した一般市場審査の効率化

本コラムでは、この東証資料の中から特に「TPM 上場を検討する企業が今すべきこと」に焦点を当て、実践的な準備のポイントを解説します。私自身、公認会計士として多くの企業の上場支援に携わり、また自社デジタルキューブの TPM 上場準備を CFO として陣頭指揮した経験から、現場で本当に必要となる準備について、具体的にお伝えしたいと思います。

東証資料が示す TPM の新しい方向性

まず、東証資料の中核部分を確認しておきましょう。

TPM の新たな位置づけ

東証は TPM を「一般市場上場とその後の成長を目指す企業が集う市場」と再定義しました。

そして、目指す姿を『知名度・信用力の向上などの副次的な効果を提供するだけではなく、株式による資金調達や株式売買の機会の提供など、マーケット本来の機能(株式の発行・流通機能)を強化、一般市場上場後を見据えて大きく成長できる場』としています。

また、TPM のステップアップ実績が以下のように示されています。

  • ステップアップ企業数:15社
  • ステップアップ上場までの期間:2年1か月(中央値)
  • 時価総額成長:TPM 上場時から一般市場上場時までに1.8倍(中央値)

この「2年1か月」という数字は、TPM 上場を検討する企業にとって意識しておくべき期間です。つまり、TPM 上場の準備段階から、TPM 上場後から約2年後の一般市場移行を見据えた体制整備が求められているということです。

TPM 上場を検討する企業が今すべき4つの準備

東証資料の内容と、私自身の実務経験を踏まえ、TPM 上場を検討する企業が今すべき準備を4つの観点から解説します。

準備① 「最初から一般市場を見据えた体制整備」

ステップアップ企業の準備期間中央値が2年1か月であることを考えると、TPM 上場時点で既に「2年後の一般市場移行」を見据えた準備ができていることが理想です。

東証資料では、証券会社から以下のような声が寄せられています。

「TPM から一般市場への上場にあたっての審査は、非上場企業の審査と同様、一から確認が行われており、その対応には相応の負担がかかる。TPM 上場企業として適時開示・情報管理など一定の体制は整備できているので、その実績を勘案して効率的に審査を行えないか。」

この声から、TPM 段階での体制整備の質が、一般市場移行時の審査効率化につながる可能性が示唆されています。

具体的な準備内容

規程類の整備
TPM 基準の簡易版ではなく、最初から一般市場でも通用するレベルで整備します。取締役会規程、職務権限規程、稟議規程など、コーポレート・ガバナンスの基本となる規程を優先し、将来の有価証券報告書作成を意識した内容にすることで、手戻りを防ぎます。

内部統制の構築
J-SOX は TPM では任意ですが、将来を見据えた基礎構築を行います。証券会社からの指摘にあるように、「適時開示・情報管理など一定の体制」を TPM 段階で確立し、特に業務プロセスの文書化と統制活動の設計に注力することが重要です。

開示体制の確立
投資家との対話を前提とした IR 体制を構築します。決算説明資料の作成や決算説明会の実施準備を進め、月次決算の早期化と精度向上を図ることで、ステップアップ時の負担を軽減できます。

資本政策の設計
ステップアップ時の資金調達を見据えた資本政策を設計します。東証が検討する「投資家のリスト化」を活用できる株主構成を検討し、流通株式比率の確保に向けた段階的な計画を立てることが求められます。

実務での注意点

私が自社の上場準備で特に重視したのは、「TPM 用の簡易版を作らない」ことでした。規程類は最初から一般市場基準で作成し、運用開始することで、後からの大幅な改訂を避けることができました。

ただし、全てを完璧にしようとすると準備期間が長期化してしまいます。優先順位をつけ、「TPM 上場時点で最低限必要なもの」と「一般市場移行までに整備すればよいもの」を区別することが重要です。

準備② 「見える化」への対応:成長ストーリーの明確化

東証資料では、今後の具体的な施策として「企業の取組みの可視化」が挙げられています。具体的には以下のようなものです。

  • 一般市場へのステップアップや外部株主からの資金調達などに前向きな企業を、東証が「見える化」
  • 決算説明資料の開示や決算説明会の開催の促進
  • グロース市場で開示されている「事業計画及び成長可能性に関する事項」を TPM でも任意開示として促進

また、TPM 上場会社からは、以下のような前向きな声が寄せられています。

「当社は、将来的な一般市場へのステップアップを目指して、TPM 上場時に、外部の投資家から資金調達を行った。取引所が、前向きに取組みを進める TPM 上場企業を投資家に示してくれるのであれば、真っ先に手を挙げたい。」

具体的な準備内容

成長戦略の言語化
グロース市場の「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示フォーマットを参考に、ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、成長戦略の4点を整理します。投資家が「なぜこの会社に投資すべきか」を理解できる説明資料を準備することが重要です。

数値目標の設定
経営上重視する指標を明確にし、実績値と目標値を設定します。特に、TPM 上場時から一般市場上場時までの時価総額成長は平均1.8倍(中央値)というデータを参考に、自社の目標を具体化しましょう。

資金調達計画
TPM 上場時及びステップアップ時の資金調達計画を策定し、調達資金の使途を明確にします。投資家に対して「なぜ今資金が必要か」「その資金でどう成長するか」を一貫したストーリーで説明できることが重要です。

ステップアップのタイムライン
準備期間中央値2年1か月を参考に、コーポレートガバナンス対応、内部統制(特にJ-SOX)構築、資本政策に応じた資金調達など、各マイルストーンを設定します。これにより、TPM 上場後も「次に何をすべきか」が明確になります。

実務での注意点

成長ストーリーは、単なる「絵に描いた餅」にならないよう、実現可能性と具体性が重要です。

私の経験では、事業計画の数値だけでなく、「なぜその数値が達成可能なのか」というロジックを明確にすることが、投資家との対話では特に重要でした。市場規模、自社のシェア、成長ドライバーを具体的に説明できることが求められます。

また、J-Adviser からの指摘にあるように、この資料を作成すること自体が「成長戦略や自社のアピールポイントを考え直す良い機会」になります。経営陣で議論を重ね、社内での認識を統一することが、その後の実行力につながります。

準備③ 投資家との対話準備

東証資料では、「企業と投資家の接点づくり」が今後の施策として検討されています。

具体的な準備内容

エクイティストーリーの構築
投資家に対する一貫した説明ストーリーを構築します。なぜ TPM を選択したのか、2年1か月の期間で何を達成するのか、一般市場でどのような企業を目指すのか、そして投資家にどのようなリターンを提供できるのか。これらを明確に説明できることが、資金調達成功の鍵となります。

企業価値算定の客観的根拠
DCF 法やマルチプル法を用いて企業価値を算定し、客観的な根拠を準備します。事業計画の変更が企業価値に与えるインパクトをシミュレーションし、類似企業との比較で妥当性を検証することで、投資家との交渉における説得力が高まります。

投資家向けプレゼンテーション資料
決算説明資料のフォーマットを整備し、会社概要、事業内容、強み、成長戦略、財務状況を簡潔に説明できる資料を準備します。沿革、組織図、事業系統図などの IR 資料も充実させ、投資家が企業理解を深められる環境を整えましょう。

実務での注意点

投資家との対話では、「誠実さ」と「具体性」が最も重要です。
無理な成長目標を掲げるのではなく、現実的で達成可能な計画を示し、そのために何をするのかを具体的に説明することが信頼につながります。

また、企業価値算定については、専門家の支援を受けることをお勧めします。自社だけで算定すると、どうしても主観が入りやすく、投資家との交渉で説得力に欠ける場合があります。

準備④ 地方企業特有の準備ポイント

TPM 上場企業は東京以外に所在する企業が60%を占めております。東証資料のヒアリングでは、地方企業ならではのニーズも浮かび上がっています。

具体的な準備内容

地域との関係性の維持
TPM 上場によって得られる知名度・信用力向上を地域ビジネスに活用しつつ、地域金融機関との良好な関係を維持します。地域経済への貢献姿勢を明確に打ち出すことで、地域の強みを損なわずに経営の高度化を図ることができます。

人材確保の戦略
「東証上場企業」というブランドを活用し、採用力を強化します。U ターン人材や地元の優秀な若手人材に対して、地方にいながら上場企業で働けるという魅力を訴求することで、人材確保の課題を克服できます。

デジタル化の推進
クラウドツールを活用して地理的制約を克服し、リモートで専門家とタイムリーに連携できる体制を構築します。東京の証券会社や監査法人ともオンライン会議で効率的にコミュニケーションを取ることで、地方企業でもスムーズな上場準備が可能になります。

地方金融機関との連携
J-Adviser 資格を取得した地方金融機関を活用することで、地域に根ざした上場支援を受けられます。従来の融資と資本市場での資金調達を組み合わせることで、より柔軟な資金戦略を構築できます。

実務での注意点

地方企業の強みは、地域との強い結びつきです。この強みを損なわずに、経営の高度化を図ることが重要です。

私自身、香川県出身で地方の課題を肌で感じてきました。専門人材の確保、最新情報へのアクセス、ネットワークの構築など、地方ならではの課題は確かに存在します。

しかし、デジタル化によってこれらの多くは克服可能です。実際、当社の上場準備でも、クラウドツールを活用することで、神戸や香川と東京の距離をほとんど感じることなく準備を進めることができました。

FinanScope が実現する効率的な準備体制

ここまで述べてきた4つの準備を、限られた人員とリソースで効率的に進めるには、適切なツールの活用が不可欠です。

上場準備クラウド「FinanScope」は、私自身が自社の上場準備で直面した課題から生まれたサービスです。「もっと効率的に、もっと確実に準備を進められる仕組みがあれば」という現場の実感から開発しました。

FinanScope が支援する4つの準備

準備①「体制整備」への対応

  • 一般市場対応の40以上の規程集テンプレート
  • 上場準備タスクの標準化と進捗管理
  • ガントチャート機能による期限と優先順位の可視化
  • 規程類のバージョン管理と関係者との共有

準備②「見える化」への対応

  • 企業価値算定機能(DCF 法・マルチプル法)
  • 事業計画のシミュレーション機能
  • エクイティストーリー構築のサポート

準備③ 公認会計士など「専門家による支援

  • IPO プロジェクトの伴走
  • 内部監査アウトソーシング・コソーシング
  • 各種デューデリジェンス
  • M&Aアドバイザリー

準備④「地方企業」への支援

  • クラウドベースでどこからでも利用可能なシステム
  • リモートでの専門家との連携をサポート
  • 地方会計事務所・金融機関(銀行・証券会社)とのパートナーシップ

導入企業の声

実際に FinanScope を導入いただいている企業からは、以下のような声をいただいています。

「上場準備には非常に多くのタスクが存在するなかで、何をどの順番で着手すべきかが不明瞭でした。FinanScope を利用することで、各タスクの明確化・優先順位付けが可能になりました。」

「IPO 準備で大変なことのひとつがタスク管理で、FinanScope を導入したことで、これらのタスクを一括で管理できるようになり、今どのタスクがどの程度進んでいるのかが一目でわかるようになりました。」

活用事例記事はこちらから

コスト面でのメリット

東証資料でも指摘されているように、地方企業にとって専門人材の確保は大きな課題です。特に CFO 候補となる優秀な人材の採用には年間1,000〜1,500万円のコストが必要となり、中小規模の企業にとっては大きな負担となります。時間をかけていい人材を探すことが大事です。

FinanScope を活用することで、CFO 候補の採用を落ち着いて進めることができ、まずは経理人材1名と必要に応じた外部コンサルの組み合わせで上場準備を進めることが可能になります。FinanScope の利用料を含めても年間200万円程度のコストで済むため、約1/5のコストで必要な専門性を確保できます。これにより、限られたリソースでも効率的に上場準備を進めることができるのです。

まとめ │ TPM は「戦略的な成長の起点」へ

東証資料「プロマーケットの今後の方向性について」は、TPM の役割を再定義しました。「一般市場上場とその後の成長を目指す企業が集う市場」という新たな位置づけは、TPM が単なる「上場しやすい市場」ではなく、準備期間中央値2年1か月で時価総額1.8倍の成長を実現する「ステップアップ市場」へと進化していることを示しています。

この方向性転換は、TPM 上場を検討する企業にとって重要な意味を持ちます。最初から一般市場を見据えた体制整備、成長ストーリーの明確化、投資家との対話準備、そして地方企業ならではの強みを活かした準備。これら4つのポイントを押さえることで、TPM という助走路を最大限に活用できます。

限られたリソースで効率的に準備を進めるには、適切なツールの活用が不可欠です。FinanScope は、規程整備から企業価値算定まで、上場準備に必要な機能を一貫して提供します。約1/5のコストで専門性を確保し、地理的制約を克服しながら、確実な準備を実現できます。

東証が描く新しい TPM の姿を理解し、今から戦略的な準備を始める企業こそが、次のステージでの成長を実現できるでしょう。

無料相談会のご案内

TPM 上場準備について、具体的にどこから始めればよいかお悩みの経営者の方へ。
FinanScope では、IPO や M&A の実務経験豊富な公認会計士による無料個別相談会を実施しています。

相談可能な内容

  • TPM 上場と一般市場 IPO の比較検討
  • 上場準備における必要タスクの明確化と進め方
  • 企業価値評価・事業計画の策定方法
  • FinanScope の具体的な活用方法
  • 監査法人・証券会社・J-Adviser のご紹介

特徴

  • 場所や時間を選ばないオンライン相談
  • 上場準備の進捗状況を問わず相談可能
  • 無料(相談料はいただきません)

ご相談はこちらから
https://meetings.hubspot.com/takuma6/finanscope-online

「地方から、新しい可能性を切り拓く」。一社一社の状況は異なりますが、その挑戦を私たち FinanScope は全力で支援します。