デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬
2026年2月18日、東京証券取引所(東証)上場推進部が「プロマーケットの今後の方向性について」と題した資料を公表しました。TOKYO PRO Market(以下、TPM)に上場している企業、あるいは上場を検討している企業にとって、この資料は非常に重要な意味を持ちます。
【参考】プロマーケットの今後の方向性について(PDF)2026年2月18日 東京証券取引所 上場推進部
東証の公表資料では、グロース市場の基準厳格化を背景とした企業行動の変化、TPM に対する東証の新たな位置づけ、そして全 TPM 上場企業に求められる具体的な施策が詳細に示されています。私としては、以下の4点が特に重要なポイントだと考えています。
重要なポイント
- 開示義務化:上場目的(なぜ TPM に上場するのか、どのように活用したいのか)の明示が全上場企業に求められる
- 影響の広がり:開示内容が従業員・既存株主・金融機関・証券会社への共通メッセージになる
- 実態との緊張:一般市場を積極的に目指していない企業も、開示フォーマット上「長期的な検討」を記載せざるを得ない構造
- 審査効率化:TPM での実績を評価した一般市場審査の効率化により、ステップアップのハードルが下がる
本コラムでは、この東証資料の中から特に「TPM 上場企業が今、向き合うべき開示対応」に焦点を当て、実践的な準備のポイントを解説します。私自身、公認会計士として多くの企業の上場支援に携わり、また自社デジタルキューブの TPM 上場準備を CFO として陣頭指揮した経験から、現場で本当に必要となる準備について、具体的にお伝えしたいと思います。
目次
東証が示したメッセージの本質
資料の冒頭では、スタートアップエコシステムの変化が指摘されています。グロース市場の上場維持基準の見直しにより、一般市場上場の規模要件が事実上大型化しつつある中、IPO 時期・規模の見直しや M&A を検討する企業が増加しているという背景認識です。
その結果として「非上場と一般市場の間に位置する TPM の活用ニーズが高まっている」と整理されており、TPM が受け入れるべき企業像として以下が示されました。
- 知名度・信用力向上を通じて企業規模・業績を拡大したい企業
- 社内体制整備に向けた段階的なステップとして活用したい企業
- プロ投資家から成長資金を獲得する場として活用したい企業
- 既存株主に売却機会を提供し、新たな株主を迎え入れたい企業
- M&A・資本提携の相手となる事業会社を探したい企業
これだけ読むと、TPM の門戸が広がったように見えます。しかし資料の真のメッセージは、続く項目に記載されています。東証は、TPM 上場企業に対して「なぜ TPM に上場するのか、どのように TPM を活用したいのか」を明示・開示することを求める方針を打ち出したのです。
上場目的の開示 — 何を、いつ、どのように
東証の施策案によれば、2026年春を目処に、全 TPM 上場企業を対象に「上場目的の開示」を働きかける方針です。具体的には以下の2段階が想定されています。

TPM への新規上場時
上場目的(なぜ TPM に上場するのか、TPM をどのように活用したいのか)を検討・開示することが求められます。さらに、上場目的の内容に応じた追加的な情報開示も促されます。たとえば一般市場上場とその後の成長を目的とする場合には、中長期的な成長目標・成長戦略、一般市場への上場目標時期・上場予定市場・上場準備スケジュールなどの開示が想定されています。
TPM への上場後
定期的に(毎年1回以上)上場目的の実現状況を評価・開示することが求められます。目的を十分に実現できていない場合には、今後の対応方針もあわせて開示する必要があります。
この枠組みは既上場企業にも適用される見通しで、「準備が整い次第速やかに開示を実施」との記載があります。
「一般市場は目指していない」会社はどう対応するのか
ここで多くの TPM 上場企業が直面するのが、「自社はそもそも一般市場への上場を積極的に目指しているわけではない」というケースです。
TPM を活用している企業の中には、外部株主の介入を避けたい、あるいは現段階では一般市場の上場維持コストに見合う規模に達していないと考えている企業も少なくありません。経営者の本音として「グロースやスタンダードを当面の目標にはしていない」という方も、実際に多くいらっしゃいます。
しかし今回の東証の方針を踏まえると、そのような企業であっても、上場目的として「将来的には一般市場へのステップアップも長期的な選択肢として検討している」といった趣旨の記載をせざるを得ない状況になると考えられます。「特に考えていない」「現状維持で十分」という開示は、東証が想定する TPM の活用ニーズと整合しないからです。
これは形式的な開示に終わるリスクをはらみますが、一方でこの「一言」が会社内外に与える影響は小さくありません。
開示が持つ影響力 — 社内・株主・金融機関への波及効果
上場目的の開示がいったん公式文書として記載されると、それはステークホルダー全員への共通メッセージになります。
社内の従業員にとって、会社が将来的にどの方向へ進もうとしているのかが明示されることは、採用・人材定着・組織設計に直結します。「ステップアップ上場を目指す」と明記されれば、それに向けた内部体制整備が経営の優先課題として位置づけられます。
既存株主にとっては、投資回収の出口(EXIT)シナリオが具体化されることを意味します。特に役職員株主や初期に株式を取得した個人株主にとって、この情報の影響は大きい。
証券会社・金融機関にとっては、企業の資本政策の方向性が明確になることで、融資条件の検討や資本提携の提案がしやすくなります。J-Adviser も、各社の上場目的を踏まえた伴走方針を立てやすくなるでしょう。
一方でリスクもあります。開示した内容と実際の行動が乖離した場合、「目標時期として掲げた一般市場上場が達成できていない」という評価が外部に可視化されます。東証の方針では、目標未達の場合は「それを踏まえた今後の対応方針」の開示も求められています。これは企業にとって、一定のプレッシャーとして機能することになります。
デジタルキューブとしての対応
デジタルキューブは TPM 上場企業(証券コード:263A)として、各種インタビューやセミナーを通じて「TPM を活用して成長を目指す」という方向性を公言してきました。しかし対象市場や具体的な時期については、現時点では公式に明示していません。
今回の東証の方針に沿えば、一般市場への上場目標時期や上場予定市場についての記載が求められることになります。これはデジタルキューブとしても、正面から向き合う必要がある課題です。
私自身は、この開示義務化を単なる規制対応として捉えるより、自社の成長戦略を社内外に明示する機会として活用することが重要だと考えています。「いつ、どの市場を目指し、そのためにどのような体制・業績目標を設定しているか」を言語化するプロセスは、経営の解像度を高め、J-Adviser や投資家との対話の質を上げることにもつながります。
TPM 上場企業が今すぐ取り組むべきこと
東証の施策スケジュールを整理すると、2026年春には上場目的の開示の働きかけが始まります。既上場企業も「準備が整い次第速やかに」対応することが求められているため、実質的には2026年中の対応が求められると見るべきでしょう。
具体的に準備すべき事項としては、まず J-Adviser との協議を通じて自社の上場目的を整理・言語化することが出発点になります。その上で、上場目的の内容に応じた追加開示(成長戦略・資金調達計画・ステップアップのスケジュール感)を検討し、発行者情報(IR 資料)として公表できる形に整えていく必要があります。
FinanScope は、こうした開示準備のプロセスを効率化するためのクラウドサービスです。上場目的の整理から、情報開示に向けたドキュメント管理・社内体制整備まで、TPM 上場企業の実務に特化した機能を提供しています。今後の方向性について情報収集したい方、あるいは開示準備を具体的に進めたい方は、ぜひご相談ください。
TPM は「目的を明示して使い倒す市場」へ
東証資料「プロマーケットの今後の方向性について」は、TPM の役割を再定義しました。「上場目的の可視化」という新たな枠組みは、TPM が単なる「上場しやすい市場」ではなく、成長意欲のある企業が目的を明確にしながら投資家・市場関係者と接点を持つ「戦略的な助走の場」へと進化していることを示しています。
この方向性転換は、既存の TPM 上場企業にも新規上場検討企業にも、等しく重要な意味を持ちます。上場目的の言語化、追加情報開示の準備、毎年の実現状況評価 —— この一連の対応を形式的なコンプライアンスで終わらせるか、成長戦略の解像度を高める機会として活かすか。その差が、ステップアップ後のパフォーマンスにも影響すると考えています。なお、TPM から一般市場に上場した企業の時価総額成長率の中央値は2.0倍(経過期間の中央値は2年1か月)というデータも、東証資料に示されています。

限られたリソースで上場目的の整理から開示準備まで効率的に進めるには、適切なツールの活用が不可欠です。FinanScope は、規程整備から情報開示ドキュメントの管理まで、TPM 上場企業の実務に特化した機能を一貫して提供します。
東証が描く新しい TPM の姿を正しく理解し、上場目的を自分たちの言葉で定義することから始める企業こそが、次のステージでの成長を実現できるでしょう。
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