【地域別分析】TPM 上場企業の地域分布から見る上場戦略の違い

【地域別分析】TPM 上場企業の地域分布から見る上場戦略の違い

デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬

TOKYO PRO Market(以下、TPM)の上場企業162社(2026年1月末時点)のうち、東京都以外に本社を置いている企業は61.1%です。東証グロース市場の東京比率が76%であることと比較すると、TPM の「地方企業の受け皿」としての性格は際立っています。

私たちデジタルキューブは兵庫県神戸市に本社を置き、2024年10月に TPM 上場を果たしました。上場準備を進める中で実感したのは、地域によって上場の「動機」や「活用方法」が大きく異なるという点です。本コラムでは、TPM 上場企業の地域分布データを分析し、各地域における上場戦略の違いを明らかにします。

TPM 上場企業の地域分布

2026年1月末時点の TPM 上場企業162社の本社所在地を地域別に整理すると、以下のような分布となっています。

地域企業数
関東地方78 (うち東京都は63社)
近畿地方33
中部地方22
九州・沖縄地方13
中国地方6
四国地方4
東北地方3
北海道地方3

東京都が63社(38.9%)で最多ですが、グロース市場(76%)やスタンダード市場(46%)と比較すると、東京への集中度は明らかに低くなっています。地方企業にとって TPM が現実的な選択肢として機能していることの証左といえるでしょう。

地方企業99社(61.1%)の内訳を見ると、近畿地方が33社と突出しており、中部地方が22社、東京都以外の関東地方が15社、九州・沖縄地方が13社、中国地方が6社、四国が4社、北海道が3社、東北が3社と続きます。九州地方については、福岡証券取引所(FPM)への単独・重複上場もあり、独自の動態を示しています。

地域別の上場戦略:北海道・東北

北日本エリアでは、地理的制約を克服するための「ブランド構築」と、復興需要に伴う「公的信認の獲得」が上場の主要な動機となっています。

北海道:広域商圏ブランドの確立

北海道では札幌市を中心に3社が TPM に上場しており、広大な道内市場をカバーするための信用力強化と、道外進出への足掛かりとして市場を活用しています。

代表的な事例として、株式会社一寸房(札幌市中央区)が挙げられます。建築設計を手がける一寸房は、「北海道から全国へ、そして海外へ」をビジョンに掲げ、設立からわずか数年で東京支店を開設しました。現在では受注比率において東京が90%を占めるに至っています。TPM 上場による信用力の向上が、東京の大手ゼネコンやクライアントからの受注獲得に大きく寄与した好例です。

東北:復興と金融支援の融合

東北地方は3社の上場企業を擁し、うち2社が福島県に所在するという特徴的な分布を示しています。福島県に上場企業が集中している背景には、東日本大震災後の復興需要と、それに伴う産業構造の転換が考えられます。

再生可能エネルギー関連や建設・土木関連など、復興予算や公的資金が投入されるプロジェクトにおいては、企業のコンプライアンスや財務健全性が厳しく問われます。TPM 上場は、公的入札や大手企業との取引において「適格性」を証明する手段として機能しているのです。

東北地方における TPM 活用の推進役は、七十七銀行(宮城県)です。七十七銀行は東北大学や東京証券取引所と連携協定を締結し、「東北地方からの上場企業創出」を銀行のミッションとして掲げています。日本 M&A センター、フィリップ証券、宝印刷といった専門機関(J-Adviser 等)と提携し、上場準備から申請までを一貫してサポートする体制を整えました。

地元のリーディングバンクが主導することで、「上場は東京の企業だけのもの」という心理的障壁が取り払われつつあります。地域金融機関が単なる融資元から、企業の資本政策に深く関与する投資銀行的な機能へと脱皮していることを示唆しています。

地域別の上場戦略:中部地方

中部地方は、22社という上場企業数を誇ります。「モノづくり」の集積地という産業特性と TPM の親和性は極めて高いといえるでしょう。

製造業サプライチェーンにおける信用補完

愛知県を中心とする中部地方は、自動車産業や航空宇宙産業の集積地であり、強固なサプライチェーンが存在します。取引先はトヨタ自動車や三菱重工業といったグローバル企業が中心となり、これらの大企業はサプライヤーに対して高度な品質管理だけでなく、近年では ESG(環境・社会・ガバナンス)対応やコンプライアンス遵守を強く求めています。

TPM 上場は、監査法人による監査と J-Adviser による審査を経ているため、大手企業に対する「管理体制の証明書」として機能します。創業オーナーからの事業承継期にある製造業が多く、上場プロセスを通じて属人的な経営から組織的な経営へと脱皮を図るニーズが高いことも、中部地方での上場数増加の要因です。

広域への浸透

中部地方の TPM 活用は愛知県にとどまらず、周辺県にも波及しています。富山県立山町にも上場企業が存在するなど、地方の町村部に本社を置く企業であっても、ニッチな技術力や特定市場でのシェアを持っていれば、TPM を通じて全国的な認知を得ることが可能であることを示しています。

地域別の上場戦略:近畿地方

大阪府を中心とする近畿地方は33社の上場企業を有し、業種構成の多様性において他地域を凌駕しています。商都・大阪の土壌を反映し、不動産、エネルギー、サービス、製造業と多岐にわたる企業が TPM を活用しています。

都市型ビジネスのショーケース

大阪府の上場企業は、都市特有の課題解決型ビジネスや、独自のニッチトップ企業が目立ちます。

株式会社ファーストステージ(大阪市北区)は、投資用新築マンションの分譲・賃貸管理を手掛けています。不動産業界では、用地仕入れや開発資金の調達において金融機関からの信用力が生命線となります。TPM 上場により、財務情報の透明性を高め、融資枠の拡大や資金調達コストの低減を実現しています。

私たちデジタルキューブも近畿地方(兵庫県神戸市)に本社を置く企業として、TPM 上場を通じて経営の透明性向上と組織基盤の強化を実現しました。地方に本社を置きながらも全国・グローバルに事業を展開する企業にとって、TPM は有効な選択肢となり得ます。

地域別の上場戦略:中国・四国地方

中国・四国地方は、TPM を「通過点」として戦略的に利用する「ステップアップ上場」の成功事例を輩出している地域として特筆されます。

中国地方:ステップアップの先進地

中国地方には6社の上場企業が存在し、特に岡山県や山口県などの企業が先進的な動きを見せています。

岡山県に本社を置き、半導体洗浄装置を手掛ける株式会社ジェイ・イー・ティの事例は、地方企業が目指すべき TPM 活用の金字塔となっています。ジェイ・イー・ティはまず2021年3月、TPM に上場し、社内管理体制や開示体制を整備しました。その後、2023年9月に東証スタンダードへのステップアップ上場を果たしています。TPM 上場時の時価総額111億円は、スタンダード上場時には182億円へと約1.6倍に成長しており、約2年5か月でのステップアップを実現しました。

「いきなり一般市場を目指すのはハードルが高いが、TPM を経由すれば段階的に上場企業になれる」という現実的なロードマップを提示したことで、中国地方の地銀や経営者の間で TPM への注目度が劇的に向上しました。

株式会社バルコス(鳥取県倉吉市)は、ハンドバッグメーカーとして知られています。鳥取県という地方都市に本社を置きながら、東京進出や海外展開を積極的に行っており、ファッション業界において「鳥取発」というオリジナリティを維持しつつ、グローバルな商談における信用力を担保するために TPM 上場を活用、2025年2月に名古屋証券取引所ネクスト市場にステップアップ上場しています。

株式会社フロンティア(山口県周南市)は、2018年に TPM 上場後、2021年に福岡証券取引所 Q-Board へ上場を果たしました。中国地方の企業が、地理的に近い九州の経済圏(福岡証券取引所)を「次のステップ」として選択した示唆に富む事例です。TPM上場時点では山口県に本社があり、その後福岡に本社を移転し、Q-Boardに上場されています。

四国地方:人材確保と事業承継

四国地方は4社が上場しており、各県に分散する傾向があります。四国は人口減少と若年層の流出が深刻な課題となっており、TPM 上場は「地元に残る優良企業」としてのブランディングに直結します。

地元の国立大学や高専からの新卒採用において、非上場企業と上場企業では学生やその親の反応が大きく異なります。四国の企業は、資本調達以上に「人材求心力」を求めて上場するケースが多いのが特徴です。

地域別の上場戦略:九州地方

九州地方は、TPM にとって最もダイナミックかつ競争的な環境にあります。強力な独自市場である「福岡証券取引所」が存在し、企業にとって「東京(TPM)」か「福岡(FPM、Q-Board)」か、あるいは「TPM と FPM の両方」かという選択肢が存在するためです。

独自の金融エコシステムと J-Adviser

九州では、地元の有力金融機関が TPM のプレイヤーとして深くコミットしています。九州フィナンシャルグループ(九州 FG 証券)や佐賀銀行が J-Adviser 資格を取得し、直接的な審査・指導を行う体制を構築しました。

九州の企業は東京のコンサルタントに依存せず、地元の銀行担当者と相談しながら TPM 上場を目指せるようになっています。九州経済界の「地産地消」志向(地元企業を地元の金融機関が育て、手数料も地域に落とす)とも合致しています。

TPM と福岡証券取引所(Q-Board)の競合と連携

九州および関連する西日本エリアの企業動向において、最も注目すべき現象は「市場間の移動」です。

株式会社パパネッツ(本社:埼玉県越谷市)の事例が興味深いです。パパネッツは管理会社サポート事業、インテリア・トータルサポート事業を展開し、当初 TPM に上場していましたが、2025年3月に福岡証券取引所 Q-Board へ上場(くら替え)し、TPM からは上場廃止しています。

通常、地方市場から東京市場へのステップアップが一般的ですが、パパネッツは「プロ投資家限定の東京市場(TPM)」から「一般投資家も参加可能な地方市場(Q-Board)」への移行を選択しました。TPM が流動性(株式の売買頻度)において課題を抱える一方、福岡 Q-Board のような活気ある地方市場が、一般投資家からの資金調達や株主優待を通じたファン作りにおいて優位性を持つと判断された可能性があります。

埼玉県の企業が福岡の市場を選ぶという事実は、九州経済圏の独立性と市場としての魅力を証明しており、プロ向け市場の選択において新たな視点を提供しています。

地域別産業構成のまとめ

各地域の TPM 上場企業の傾向を総括すると、以下のような経済的特性が浮き彫りとなります。企業数の最も多い関東地方と近畿地方は、サービス・IT・不動産といった第三次産業が中心です。

関東地方(総企業数:78社)
情報・通信業(19社、24.4%)、サービス業(18社、23.1%)、不動産業(16社、20.5%)が上位3位を占めています。この3業種で全体の約68%を占めており、大都市圏特有の知識集約型・サービス型の産業構造が顕著です。

近畿地方(総企業数:33社)
卸売業(8社、24.2%)、情報・通信業(6社、18.2%)、サービス業(5社、15.2%)が中心です。関東地方に比べると卸売業の比率が高いのが特徴ですが、IT・サービス業もそれに続きます。

中部地方(総企業数:22社)
建設業(5社、22.7%)が最も多く、次いでサービス業(4社、18.2%)とその他の業種が続きます。製造業が集積する地域でありながら、TOKYO PRO Market上場企業としては、建設や地域に根差したサービス業が相対的に目立っています。

九州・沖縄地方(総企業数:13社)
サービス業(5社、38.5%)が突出して多く、特に観光・レジャー・ヘルスケアなど、地域特性を活かしたサービス業の比率が高いと推測されます。

四国地方と東北地方は、企業数が少ないながらもサービス業の比率が高く(四国:50.0%、東北:66.7%)、また四国地方では保険業(25.0%)といった特定の業種も上位に入っています。

まとめ:地域特性を活かした上場戦略の構築

TPM 上場企業の地域分布を分析すると、「上場」という同じ行為であっても、その動機や活用方法は地域によって大きく異なることが明らかになりました。

北海道・東北では「ブランド構築」と「公的信認」、中部では「サプライチェーン適応」、近畿では「都市型競争での差別化」、中国・四国では「ステップアップ」、九州では「市場選択」がそれぞれの主要テーマとなっています。

共通しているのは、TPM が「終着点」ではなく「通過点」あるいは「変革のツール」として機能している点です。ジェイ・イー・ティー(岡山県)のように東証一般市場へステップアップする企業もあれば、パパネッツ(埼玉県)のように地方市場へ移行する企業もあります。重要なのは、自社の事業特性と地域の経済環境を踏まえた上で、最適な資本市場戦略を設計することです。

FinanScope としては、こうした地域ごとの上場戦略の違いを踏まえ、各企業の状況に応じた上場準備支援を提供してまいります。

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FinanScope では、上場準備に関する疑問や不安を解消するための無料オンライン相談会を実施しています。本記事でご紹介した内容以外にも、企業の状況に合わせた具体的なアドバイスを提供しています。

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