和田拓馬(株式会社デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士)
2026年7月1日、東京証券取引所は「TOKYO PRO Market への上場目的の開示企業一覧表」の公表を開始しました。
「TOKYO PRO Marketへの上場目的の開示企業一覧表」及び「TOKYO PRO MarketにおけるJ-Adviserのご紹介」の公表等について
2026年6月15日時点で107社、TOKYO PRO Market(以下、TPM)上場企業の約6割が上場目的を開示しています。あわせて東証は、開示内容を集計した「TPM への上場目的の開示状況」も公表しました。
「なぜ TPM に上場するのか」という問いに、上場企業107社が公式文書で答えた初めての機会です。TPM 上場企業の当事者であり、日々 IPO 準備企業を支援する立場から、公表データを読み解きます。あわせて、一覧表に掲載された107社の構成を独自に集計し、開示の実像を分析しました。
目次
上場目的の開示とは何か
経緯を簡単に振り返ります。東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」における議論を踏まえ、TPM を「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけました。2026年2月18日の東証資料「プロマーケットの今後の方向性について」(PDF)では、各社の上場目的(なぜ TPM に上場するのか、どのように TPM を活用したいのか)を可視化し、関係者との接点づくりに寄与するという施策の方向性が示されています。
方向性を受けて、東証は2026年4月3日、TPM の全上場会社および新規上場会社に対して「TOKYO PRO Market への上場目的の開示のお願い」(PDF)を実施しました。6月15日までに開示した企業が7月1日公表の一覧表に掲載され、以後も当分の間、毎月更新される予定です。制度の詳細と実務対応は、既報のコラム「TPM 上場目的の開示、実務対応編」で解説していますので、あわせてご参照ください。
開示状況:107社、約6割が初回の一覧表に掲載
東証の集計によると、6月15日現在の開示企業は107社で、TPM 上場企業の約6割(開示率59%)にあたります。任意の開示要請に対して、最初の集計時点で6割の企業が応じたという事実は、上場目的の言語化に対する上場企業側の関心の高さを示していると感じています。

一覧表に掲載された107社について、属性別に集計しました。
業種別の内訳
| 業種 | 社数 |
|---|---|
| サービス業 | 25社 |
| 情報・通信業 | 21社 |
| 不動産業 | 19社 |
| 卸売業 | 13社 |
| 小売業 | 9社 |
| 建設業 | 7社 |
| 陸運業 | 4社 |
| その他(電気機器、保険業、機械など) | 9社 |
サービス業、情報・通信業、不動産業の上位3業種で107社の6割を占めます。特定の業種に限らず幅広い顔ぶれが並んでおり、多様な業種の企業が集まる TPM の市場特性が、開示企業の構成にもそのまま表れています。
J-Adviser 別の内訳
| J-Adviser | 開示企業数 |
|---|---|
| フィリップ証券 | 50社 |
| 日本M&Aセンター | 18社 |
| 宝印刷 | 15社 |
| Jトラストグローバル証券 | 8社 |
| 名南M&A | 8社 |
| アイザワ証券 | 2社 |
| その他6社(各1社) | 6社 |
東証の制度設計では、開示内容を J-Adviser が事前に確認することとされています。初回から100社を超える開示が揃った背景には、各 J-Adviser が担当企業への働きかけと文面調整を短期間で進めた実務があったと推察されます。東証は7月1日、各社の特徴や強みを紹介する「TOKYO PRO Market における J-Adviser のご紹介」(PDF)も公表しており、J-Adviser を上場目的の実現を支える伴走者と位置づける流れが鮮明になっています。
開示時期:締切直前に集中
一覧表に掲載された開示資料の日付をもとに、開示時期の分布を集計しました。
| 時期 | 社数 |
|---|---|
| 2026年4月 | 2社 |
| 2026年5月 | 16社 |
| 2026年6月1日~10日 | 24社 |
| 2026年6月11日~14日 | 33社 |
| 2026年6月15日(初回集計の締切日) | 32社 |
最も早い開示資料は4月16日付で、東証の要請からわずか2週間足らずで対応した企業も存在します。一方、全体の約6割にあたる65社が6月11日から15日の5日間に集中し、締切日当日だけで32社が開示しました。初回の一覧表に掲載されることを意識して、各社が締切に向けて準備を進めた様子がうかがえます。なお、6月15日を過ぎた後も開示は続いており、翌月以降の一覧表更新で掲載企業はさらに増える見通しです。
各社は何を「上場目的」に掲げたのか
東証は開示企業107社を対象に、上場目的として掲げられている項目を集計しています(複数の目的を掲げる企業はそれぞれカウント、1社あたり平均4.2項目)。
| 上場目的の項目 | 社数 | 開示企業に占める割合 |
|---|---|---|
| 社内の体制強化 | 97社 | 91% |
| 営業力強化 | 95社 | 89% |
| 採用力強化 | 86社 | 80% |
| 一般市場に向けた準備 | 74社 | 69% |
| 金融機関との関係強化 | 53社 | 50% |
| M&A 先の探索 | 35社 | 33% |
| 増資 | 11社 | 10% |
| 株式の流通 | 1社 | 1% |
データからは、TPM 活用の実像がはっきりと浮かび上がります。
第一に、上位3項目は「社内の体制強化」「営業力強化」「採用力強化」で、いずれも8割を超えました。上場準備を通じたガバナンス・内部管理体制の整備と、上場企業という信用力を営業・採用に活かすという活用法が、TPM 上場企業に広く共通する目的だと定量的に裏付けられた形です。
第二に、「増資」を掲げた企業は11社(10%)、「株式の流通」は1社(1%)にとどまりました。一般市場の上場では資金調達が中心的な目的になるのに対し、TPM では資金調達を主目的としない上場が多数派である、と従来から言われてきました。今回の集計は、その傾向を上場企業自身の開示によって確認した初めての公式データといえます。もっとも、東証は2026年秋以降、クロスオーバー投資家等との対話イベントや上場料金の見直しなど、TPM における資金調達・投資獲得の支援を予定しています。増資を目的に掲げる企業の割合が今後どう変化するかは、注目すべき論点だと考えています。
第三に、東証によれば、多くの企業が上場目的の実現状況を今後継続的に評価することを見据え、中長期的な業績目標や一般市場の上場目標時期といった評価軸・目標等を開示しています。上場目的の開示は一度きりの表明ではなく、定期的(毎年1回以上)に実現状況を評価・開示する枠組みとして設計されており、各社の目標設定は次回以降の評価開示の起点になります。
ステップアップの見通し:69%が「一般市場に向けた準備」を掲げる
今回の集計で特に注目したいのは、「一般市場に向けた準備」を上場目的に掲げた企業が74社、開示企業の69%に達した点です。
実績と対比してみます。2026年6月30日時点で、TPM から東証スタンダードや福岡証券取引所 Q-Board、名古屋証券取引所ネクストなどの一般市場へステップアップ上場した会社は、累計17社です。市場開設以来の実績が17社であるのに対し、現在の上場企業のうち74社が一般市場への準備を目的として掲げた計算になります。開示企業の母数や各社の時間軸はさまざまですから単純比較はできないものの、ステップアップ予備軍の厚みが従来の実績を大きく上回る規模で可視化されたことは、市場の将来像を考えるうえで重要な変化です。
東証側の支援体制も具体化しています。2026年2月18日の東証資料では、一般市場上場とその後の成長に向けた準備を進める TPM 上場企業への施策として、準備のポイント・留意点の発信(2026年春以降)、J-Adviser による伴走の促進(2026年夏以降)、そして一般市場への上場審査の効率化や開示様式の見直しといった一般市場上場の円滑化(2026年秋めど)が挙げられました。実際に7月2日には、東証ホールで TPM 上場会社を対象とした「一般市場上場後を見据えた成長セミナー」が開催され、TPM から一般市場に上場した企業、主幹事証券会社、機関投資家が登壇しています。
「一般市場に向けた準備」を開示した企業には、上場目標時期や上場予定市場、上場準備スケジュールなどの追加的な情報開示が促されます。目標を公式に掲げた74社が、毎年の評価開示を通じてどのように進捗を示していくのか。ステップアップ上場の年間件数が今後増加していくのか。上場目的の開示制度は、TPM が「一般市場への助走の場」として機能しているかどうかを検証する定点観測の仕組みにもなっていくはずです。
未開示の4割の企業にも、機会は毎月続く
一方で、74社(41%)はまだ開示していません。開示は義務ではなく、準備が整い次第の対応で差し支えありませんが、一覧表は毎月更新され、東証の各種支援策は上場目的の開示を入口として展開されていきます。J-Adviser との協議を経て、自社の成長戦略を言語化する機会として活用することをおすすめします。私自身、上場目的を文書化する過程は、経営チームで「どの市場を、いつ頃を目安に目指すのか。そのために何を整えるのか」を整理する得がたい機会になると感じています。
まとめ
2026年6月15日時点で、TPM 上場企業の約6割にあたる107社が上場目的を開示し、7月1日に東証が一覧表と集計を公表しました。上場目的の上位は社内の体制強化(91%)、営業力強化(89%)、採用力強化(80%)で、増資は10%にとどまり、信用力を軸とした TPM 活用の実像が定量的に裏付けられています。「一般市場に向けた準備」を掲げた企業は69%の74社にのぼり、累計17社というステップアップ実績を大きく上回る予備軍が可視化されました。東証は2026年秋めどの一般市場上場の円滑化など支援策を予定しており、毎年の評価開示を通じた各社の進捗が今後の注目点になります。
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相談可能な内容
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- 上場目的の開示・毎年の評価開示への実務対応
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特徴
- TPM 上場企業の当事者としての実体験に基づくアドバイス
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