監査法人選びの新トレンド ── 大手から中小へ、シェアはどう動いているのか

監査法人選びの新トレンド ── 大手から中小へ、シェアはどう動いているのか

和田拓馬(株式会社デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士)

「監査法人は大手でなければ不安」という考え方は、ここ数年で前提が変わりつつあります。上場企業全体で見ても、IPO 企業に限って見ても、中小監査法人が担当する割合は着実に高まっており、プライム市場に上場する大企業でも中小監査法人が会計監査人を務める事例は珍しくありません。

今回は、金融庁のモニタリングレポートや実際の有価証券報告書に基づいて、この構造変化を具体的な企業名とともに確認していきます。

上場企業全体で進む監査法人シェアの移行

公認会計士・監査審査会「令和7年版モニタリングレポート」によると、上場国内会社数の会計監査人シェア(会社数ベース)は、大手監査法人が令和2年度の67.5% から令和6年度には58.1% まで低下し、中小監査法人は同期間で18.4% から25.9% まで拡大しています。

同様の傾向は、2025年通年の監査法人異動データにも表れています。東京商工リサーチ TSRデータインサイトによると、2025年に監査法人異動を開示した上場企業は196社で、異動の規模別では「中小監査法人から中小監査法人」への異動が78社と過去最多を記録し、「大手から中小」への異動も43社にのぼりました。

IPO(新規上場)に限ったシェアの動きはさらに大きく、大手監査法人(あずさ・トーマツ・EY新日本・PwC Japan の4法人)のシェアは2018年の86.7% から2023年には47.9% まで低下しています。2024年のIPO件数では、準大手の太陽有限責任監査法人が首位となり、公認会計士ナビが集計を始めた2013年以降で初めて準大手監査法人がトップに立ちました。この年、中小監査法人のシェアも16.7% から23.3% まで拡大しています。

ただし、この流れが一方向に進み続けているわけではない点には注意が必要です。2025年の IPO では大手監査法人の EY 新日本が15件で首位に返り咲き、太陽有限責任監査法人は7件で2位に後退しました。IPO 件数自体も2024年の86件から2025年は65件まで縮小しており、大手監査法人が再び IPO 専任部門の強化に動く様子もうかがえます。中小監査法人のシェア拡大は確かな傾向ですが、企業数の増減や市場環境によって年々の振れ幅がある、という前提で見ておく必要があります。

プライム上場企業でも中小監査法人が担当する事例

中小監査法人が担うのは、新規上場企業だけではありません。東証プライムに上場する大企業でも、中小監査法人が会計監査人を務めるケースがあります。

シマノ(証券コード7309)は、清稜監査法人が会計監査を担当しています。第119期(2025年1月1日から2025年12月31日まで)の有価証券報告書によると、監査人への監査報酬は45百万円です。自転車部品・釣具の世界的大手企業であっても、監査法人の規模と企業規模は必ずしも一致しません。

山崎製パン(証券コード2212)は、ふじみ監査法人が会計監査を担当しています。ふじみ監査法人は、2019年に合併した双研日栄監査法人と日栄監査法人を含む3法人が2023年10月に統合して発足した中堅監査法人です。もともと日栄監査法人は山崎製パンを30年以上専属で監査してきましたが、特定クライアントへの報酬依存度が高まったことが独立性の観点から課題となり、複数回の合併によって法人規模を拡大し、報酬依存度規制(特定クライアントの報酬総額が5年連続で総収入の15% を超える場合に監査人を辞任する義務)をクリアする体制を整えてきた経緯があります。中小監査法人が大企業を専属で長期間監査する場合には、こうした独立性の確保が制度的な論点になる、という点も併せて知っておくとよいでしょう。

IPO 監査でも広がる中小監査法人の存在感

IPO の現場でも、中小監査法人が主要な監査を担う事例が増えています。

犬猫生活(証券コード556A)は、2026年4月に東証グロースへ上場しました。会計監査人は OAG監査法人です。プレミアムペットフードの D2C 販売を主軸に、動物福祉活動にも取り組む成長企業の上場を、中小監査法人が支えた事例です。

ベーシック(証券コード519A)は、2026年3月に東証グロースへ上場しました。会計監査人は監査法人Growth です。監査法人 Growth は、大手監査法人でパートナーとして数多くの IPO 準備企業の監査に携わった公認会計士が中心となって設立された監査法人で、IPO 準備から IPO 後の監査までを一貫して担うことを掲げています。

いずれの監査法人も、大手監査法人出身の実務経験を持つ会計士が中核を担っており、IPO 特有の論点への対応力を強みにしている点が共通しています。

中小監査法人の品質は制度的にどう裏付けられているか

中小監査法人が IPO 監査やプライム上場企業の監査を担う流れが広がる中で、その品質はどのように確認されているのでしょうか。

日本公認会計士協会は2020年3月、「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書の公表を受けて、「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」を公表しています。上場会社等監査人登録情報に基づき、情報公開に同意した監査事務所を掲載する仕組みで、IPO を目指す企業が自社の規模や成長ステージに応じた監査事務所を選ぶための環境整備の一環です。

また、上場企業の監査を担うには「上場会社等監査人登録制度」への登録が必要です。令和8年2月24日時点で130の監査事務所が登録されており、品質管理基盤や組織・ガバナンス基盤など6つの基盤の充実に向けた支援策も進められています。

主幹事証券会社の視点から見ても、中小監査法人が監査する企業の IPO を実際に引き受ける動きが広がっています。犬猫生活の主幹事は SBI 証券、ベーシックの主幹事は岡三証券であり、いずれも上場適格性調査の過程で監査法人の体制を確認したうえで、上場を後押ししています。主幹事証券会社が上場適格性調査に関する報告書を取引所に提出するプロセスそのものが、中小監査法人が担う監査の品質を市場が受け入れつつあることの一つの表れと言えるでしょう。

なお、中小監査法人ごとに品質管理の状況には差があります。金融庁のホームページでは監査法人への行政処分や業務改善命令の履歴が公開されており、監査法人が自主的に公表する品質管理レポートでは、日本公認会計士協会による品質管理レビューの結果を確認できます。中小監査法人を選定する際は、こうした公開情報を確認することをお勧めします。

大手監査法人だから安心とは言えなくなっている

一方で、「大手監査法人が監査しているから安心」という前提も揺らいでいます。

ニデック(旧・日本電産)は、長年 PwC Japan 有限責任監査法人(旧 PwC 京都監査法人)の監査を受けてきた大企業ですが、2025年9月に提出した2025年3月期の有価証券報告書について、PwC Japan は監査意見を表明しない「意見不表明」としました。ニデックが設置した第三者委員会の調査によると、2011年ごろから続いていた不適切な会計処理が、2025年度の連結財務諸表の純資産に与える負の影響額は約1,400億円に達するとされています。東京証券取引所はニデックを「特別注意銘柄」に指定し、創業者は2025年12月に代表取締役を辞任しました。長年大手監査法人による適正意見が続いていた企業でも、こうした問題が明らかになるケースがあることは、大手・中小を問わず監査品質を保証する仕組みそのものに限界があることを示しています。

なお、中小監査法人側にも品質管理上の課題が指摘された事例があります。太陽有限責任監査法人(準大手)は、被監査会社の訂正報告書に関する監査で相当の注意を怠ったとして、2024年1月から3月まで新規契約締結業務の停止と業務改善命令を金融庁から受けています。また、ひびき監査法人(大阪府大阪市)も2023年3月、検査対応の不適切さを理由に金融庁から業務改善命令を受けました。直近では、東証グロース上場のAI企業オルツが循環取引による売上高の過大計上という不正会計を行っていた問題で、監査を担当していた中小監査法人のシドーがこれを見抜けず「相当の注意」を怠ったとして、公認会計士協会で処分の要否が審査されている状況にあります。

こうした事例が示すのは、監査品質は監査法人の規模の大小で単純に決まるものではなく、個々の監査法人の品質管理体制や、監査チームの実務対応力によって左右されるということです。

まとめ ── 自社に見合った監査法人という選択

上場企業全体でも、IPO の現場でも、大手監査法人から中小監査法人へのシェア移行は着実に進んでいます。プライム上場の大企業でも中小監査法人が監査を担う事例があり、IPO でも大手監査法人出身の会計士が中心となって設立された中小監査法人が実績を重ねています。日本公認会計士協会や金融庁による制度的な後押しもあり、中小監査法人の品質を確認する仕組みも整ってきました。

同時に、大手監査法人が監査してきた企業でも会計処理の問題が明らかになる事例があることを踏まえると、監査法人の規模だけで安心材料を求める考え方には限界があります。むしろ、自社の規模や成長ステージ、監査報酬の負担、監査チームの体制や登録状況を確認しながら、自社に見合った監査法人を選ぶという視点の方が、これからの上場準備には現実的だと考えられます。柔軟な監査体制と報酬体系を強みとする中小監査法人を選択することも、十分にお勧めできる選択肢のひとつです。

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