デジタルキューブ 取締役 / 公認会計士・税理士 和田 拓馬
2024年12月16日、福岡証券取引所に「Fukuoka PRO Market(以下、FPM)」が開設されました。TOKYO PRO Market(以下、TPM)に次ぐ国内2例目のプロ向け市場であり、地方企業の上場戦略に新たな選択肢をもたらすものとして注目を集めています。
本コラムでは、FPM の制度的特徴から具体的な上場事例まで、地方企業の経営者の方々が上場戦略を検討する際の判断材料を提供します。
目次
FPM 開設の背景と九州経済のポテンシャル
九州経済圏は、域内総生産(GRP)が約50兆円規模に達し、世界の国別 GDP ランキングと比較しても中堅国家レベルに相当するポテンシャルを有しています。特に福岡市は、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」として、スタートアップ支援に積極的な姿勢を示してきました。
しかしながら、資本市場へのアクセスは東京一極集中の傾向が続いていたのが実情です。地方には優れた技術やビジネスモデルを持つ企業が多数存在するものの、一般市場への上場には形式基準(株主数や流通株式数、利益額など)の充足や、厳格な監査基準への対応といった高いハードルが存在します。成長意欲のある企業の資金調達や信用力向上を阻害する要因となっていました。
先行する TPM は、2026年1月末時点で上場企業数が162社に達し、約6割が東京圏以外の企業で占められるなど、地方企業の受け皿として機能してきました。形式基準を設けず、J-Adviser による審査・指導を中心とした柔軟な上場制度は、地方企業にとって現実的な選択肢となっています。
FPM は、TPM の制度設計を踏襲しつつ、「九州・福岡」の地元企業や、九州地区での事業を拡大したい企業向けという地域特性に最適化された市場として設計されました。地域金融機関が「F-Adviser」として参画し、地元企業や九州地区で事業を展開する企業を伴走支援するエコシステムの構築が FPM の核心といえるでしょう。

TPM との制度比較と選択基準
FPM は基本的に TPM の制度スキームを導入しており、上場基準の柔軟性という点では共通しています。両市場とも「特定投資家(プロ投資家)」を対象としており、一般投資家の参加は制限されています。投資家保護の観点から求められる厳格な形式基準を緩和し、機動的な上場が可能となっている点が特徴です。
主要な比較項目を整理すると、FPM と TPM はいずれも形式基準(株主数、利益額等の数値基準)がなく、監査期間は直前1年間、内部統制(J-SOX)は任意適用となっています。審査主体は FPM が F-Adviser、TPM が J-Adviser であり、開示言語は日本語または英語から選択可能です。一般市場(Q-Board 等)と比較すると、上場コストは相対的に安価に抑えられます。
なぜ TPM ではなく FPM を選択するのか
TPM と FPM の制度が類似している中で、あえて FPM を選択する企業が存在します。理由は「地域性」と「ステークホルダーとの関係性」に集約されます。
第一に、地域におけるブランディングと採用力強化が挙げられます。九州を地盤とする企業にとって、「福岡証券取引所」への上場は、地元の取引先、顧客、そして求職者に対する強力なメッセージとなります。地域経済へのコミットメントを示すことで、U ターン・I ターン人材の確保や、地元での知名度向上に直結するからです。特に採用難が続く地方企業において「地元の上場企業」というブランドは、人材獲得競争における強力な武器となり得ます。
第二に、F-Adviser との距離感と信頼関係があります。FPM では、九州FG証券や佐賀銀行などの地域金融機関が F-Adviser として参入しています。日頃から融資取引等で関係の深い地銀が上場審査や支援を担うことで、企業の内情を深く理解した上でのきめ細やかなサポートが可能となります。東京のアドバイザーとのリモートな関係では得難いメリットといえるでしょう。
第三に、コストとアクセスの最適化が考えられます。物理的な距離が近い福岡での上場セレモニーや投資家向け説明会(IR)は、移動コストや時間の削減につながります。地域メディアでの露出頻度も、東京市場に埋没するよりも高くなる傾向があります。
なお、TPM 上場企業が FPM にも上場するという重複上場の事例も増加しています。福岡証券取引所にはQ-Board という一般市場もあり、FPM を足掛かりに九州地区での事業を加速し成長させ、Q-Board に上場するという事例が今後も増えてくると思われます。
FPM 上場企業の事例分析
FPM 開設以降、複数の企業が上場を果たしています。ここでは、特徴的な上場事例を分析します。
事例1:株式会社テクノクリエイティブ(証券コード 9335)
テクノクリエイティブは、熊本県熊本市に本社を置く総合エンジニアリング企業です。IT システム開発、組込制御設計、半導体関連などを手がけ、売上高は58億4,300万円(2024年9月期)、従業員数は1,143名に達しています。2025年7月8日に FPM へ上場し、F-Adviser は株式会社日本 M&A センターが務めました。
通常、売上規模約60億円、従業員1,000名超であれば一般市場への直接上場も視野に入るレベルですが、あえて FPM を選択した点に戦略的な意図が読み取れます。
熊本は TSMC(台湾積体電路製造)の進出により半導体関連産業が活況を呈しています。総合エンジニアリング事業を展開するテクノクリエイティブにとって、九州・熊本でのプレゼンス向上は、技術者採用や取引拡大において極めて重要です。FPM 上場により「九州の成長企業」としてのブランドを確立し、人材獲得競争での優位性を確保する狙いがあると考えられます。
また、日本 M&A センターが F-Adviser を務めていることから、将来的な M&A 戦略や事業承継、あるいは更なるステップアップを見据えた資本政策の一環としての位置づけも推察されます。
事例2:株式会社ライフクリエイト(TPM・FPM 重複上場:証券コード 216A)
ライフクリエイトは、福岡県北九州市に本社を置くリユース事業会社です。「ハンズクラフト」「エコプラス」等を運営し、TPM に既に上場していましたが、2024年12月16日に FPM への重複上場を実施しました。
ライフクリエイトが重複上場を選択した狙いは、地元・北九州および福岡県内での知名度向上、顧客・従業員への還元、地域密着型経営の深化にあります。FPM 開設の象徴的な第一号案件として、地域企業が地元市場を活用する好例といえるでしょう。
上記の事例から、FPM 上場企業は単に資金調達の場としてだけでなく、「地域における信用補完」「採用ブランディング」「地域経済圏でのネットワーク強化」を主目的としていることが浮き彫りとなります。
F-Adviser の内訳と地域金融機関の役割
FPM の制度を支える根幹が「F-Adviser」です。上場適格性の審査から上場後のモニタリングまでを一貫して担う存在であり、特に地域金融機関の参入は地方創生の文脈において重要な意味を持ちます。
福岡証券取引所が認定している F-Adviser は、九州FG証券株式会社、株式会社佐賀銀行、株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー、宝印刷株式会社、株式会社タナベコンサルティング、株式会社日本 M&A センター、フィリップ証券株式会社、J トラストグローバル証券株式会社など9社が名を連ねています。
特筆すべきは、九州FG証券(肥後銀行や鹿児島銀行を母体とする九州フィナンシャルグループの証券会社)や佐賀銀行が F-Adviser として参入している点です。地方銀行が単なる「融資の出し手」から、「資本市場へのゲートキーパー」へと役割を進化させたことを意味しています。
普段から企業の資金繰りや経営実態を把握しているメインバンクが審査を行うため、形式的な書類審査だけでなく、経営者の資質や事業の将来性をより深く理解した上での上場支援が可能となります。上場によるエクイティ調達と銀行融資を組み合わせた最適なファイナンス戦略を提案できる点も強みです。FPM 上場によって信用力が高まれば、銀行からの融資条件が好転する可能性もあり、相乗効果が期待できます。
東京の証券会社に対して敷居の高さを感じる地方企業にとって、付き合いのある地銀が窓口となることは、上場検討への心理的ハードルを大幅に下げる効果もあるでしょう。
福証 Q-Board へのステップアップ事例
プロ向け市場(TPM/FPM)は、一般市場(Q-Board や東証グロース)への「ステップアップ」のための通過点としても機能します。TPM を経由して福証 Q-Board へステップアップを果たした事例を分析し、成功要因を探ります。
Geolocation Technology:9か月でのステップアップ
Geolocation Technology は、静岡県三島市に本社を置く IP Geolocation 技術による位置情報サービス企業です。2020年12月に TPM 上場後、わずか9か月で2021年9月に Q-Board へステップアップを果たしました。
Geolocation Technology は2020年3月に福岡営業所を開設しており、Q-Board 上場は九州エリアでの知名度向上と営業基盤の強化を狙った戦略的なものでした。上場後、現地の自治体や企業からの評価が高まり、大型案件の受注や商談成立が増加したとされています。テレワークの普及と合わせ、全国からの優秀な人材採用にも成功しており、地方市場への上場が採用ブランディングに寄与した好例です。
株式会社パパネッツ:7年4か月での着実な成長
パパネッツは、埼玉県越谷市に本社を置く不動産管理サポート企業です。2017年10月に TPM 上場後、2025年3月21日に Q-Board へステップアップしました。
伊藤社長は Q-Board を「身の丈に合っている」と表現しています。全国展開の中で成長著しい福岡・九州市場を重要拠点と位置づけ、信頼性向上を狙いました。2016年に福岡営業所を開設し、2025年10月には博多区へ拡大移転を実施するなど、九州での事業基盤を強化しています。
上場時に約6,000万円を調達し、社内システムへの投資に充当しました。TPM では公募増資による資金調達が一般的ではないため、Q-Board への移行によって「資金調達機能」を活用した事例といえます。
参照:福証Qボードへ上場、九州での展開強化へ パパネッツ(ふくおか経済Web)

今後の展望 ─ 札幌証券取引所のプロ投資家向け新市場「Sapporo PRO Frontier Market」
FPM の開設は、他の地方証券取引所にも波及しています。特に札幌証券取引所の動きは具体的かつ迅速であり、地方プロ市場のネットワーク化が進む可能性を示唆しています。
札幌証券取引所は「Sapporo PRO Frontier Market」を2026年春に開設予定です。TPM や FPM と同様に株主数や時価総額等の形式的な数値基準を設けない柔軟な設計となる見通しです。
特徴的なのは、北海道・札幌市が進める「GX 金融・資産運用特区」と連動し、再生可能エネルギーや半導体関連企業の上場手数料を優遇する独自の仕組みを導入予定である点です。ラピダス進出等で活況を呈する北海道の産業特性を反映した明確な差別化戦略といえるでしょう。
日本の資本市場が「東京一極集中」から「地域分散・特化型」へと進化する過程において、FPM の成功は札幌をはじめとする他の地域市場にとっても重要な試金石となります。
まとめ ─ FPM が切り拓く地方企業の未来
FPM の開設は、単なる「新しい市場ができた」という事実以上の意味を持ちます。地方の企業が「東京の物差し」ではなく、「地域の信頼」をベースに資本市場へアクセスできるルートが確立されたことを意味しているからです。
地方企業にとっての FPM のメリットを整理すると、第一に、形式基準のない FPM で自社のペースに合わせてガバナンスや管理体制を整備できる「スモールスタート・ガバナンス」が挙げられます。急激な組織変革に伴う歪みを最小限に抑えながら、着実な成長を志向する企業に適しています。
第二に、採用難や取引拡大といった経営課題に対し、「福証上場企業」というブランドが即効性のある解決策となる「実利的な信用力」があります。特に地域内でのリクルーティングにおいて、効果は大きいでしょう。
第三に、地銀をはじめとする F-Adviser との密な連携により、孤独な上場準備ではなくチームとしての成長が可能になる「伴走型支援」が挙げられます。「融資」と「資本」の両面からのサポートは、企業の財務基盤を強固にします。
テクノクリエイティブやパパネッツの事例が示すように、FPM や Q-Board を戦略的に活用することで、企業は確実にステージを上げていくことができます。FinanScope としては、こうした地方企業の挑戦を、タスク管理や企業価値算定のクラウドソリューションを通じて支援してまいります。
無料相談会のご案内
FinanScope では、上場準備に関する疑問や不安を解消するための無料オンライン相談会を実施しています。本記事でご紹介した内容以外にも、企業の状況に合わせた具体的なアドバイスを提供しています。
相談可能な内容
- FPM・TPM の選択と自社に適した上場市場の見極め方
- F-Adviser・J-Adviser の選定と連携のポイント
- Q-Board 等へのステップアップを見据えた上場戦略
- 地域金融機関との連携による上場準備の進め方
- FinanScope の具体的な活用方法
ご相談はこちらから
https://meetings.hubspot.com/takuma6/finanscope-online
「地方から、新しい可能性を切り拓く」。一社一社の状況は異なりますが、その挑戦を私たち FinanScope は全力で支援します。